コロナ危機によってどんな未来が待ち受けているのか。グローバルに事業を展開しているSteelcase、HOK、Genslerのデザイナーたちが、それぞれの視点からポスト・コロナ時代のオフィスについて語った。
360編集部は、Steelcaseのグローバルデザイン&エンジニアリング担当副社長であるジェイムズ・ルドウィック、WorkPlace for HOKのシニアプリンシパル、ケイ・サージェント、Gensler シカゴの共同マネジングディレクターであるトッド・ヘイザーへ緊急インタビューを実施した。彼らは、在宅勤務でチームと連携しながら、チームメンバーをオフィスに安心・安全に戻し始めている。「オフィスの未来とは」、「今後、設計デザイナーが果たす役割とは」などについての率直な意見を聞いた。
Steelcase
ジェイムズ・ルドウィック
(James Ludwig)の視点
「デザイナーの仕事とは、曖昧さの中に明快さを見出し、物事を徹底的に追求し、その本質を見抜くことです。オフィス再開の議論の本質は、なぜその必要があるかということで、それを正しく見極めることが鍵になります。」
James Ludwig
Steelcase
グローバルデザイン&エンジニアリング担当副社長
未来を見据えて
まずは、なぜオフィス勤務再開が必要なのかを考えてみましょう。テレワークやウェブ会議には限界があると私たちは考えます。人間は創造力を持ち合わせる社会的動物です。人が集い、協働し、創造力を発揮できる「場」としての役割がオフィスにはあります。人が集うことで企業文化は形成され、ビジネスは前進します。つまり、企業文化の浸透や醸成が企業間競争の優位性につながるのです。
もちろん、何より重要なことは、従業員の健康と安全の確保です。当面や短期的対応としての感染症重視のオフィスは、いずれは人間重視のオフィスへと移行されることも念頭に入れなければなりません。私たちは、身体的、認知的、情緒的ウェルビーイングを考慮した空間デザインに注目しています。私の同僚は最近こんなことを言いました。「自分たちがすでに別世界にでも住んでいるような錯覚に陥る時がある。」と。私たちは、「働く」とは、「生活する」とは何かを企業として追求し続けています。そして、それは、「生きること」そのものだと考えています。この本質を捉えたオフィス戦略が、人々のウェルビーイングを重視したオフィスと生産性のみを重視したオフィスという明確な違いを生み出していきます。
主要な知見
コロナ渦のテレワークやオンライン授業といった多くの経験を通して、私たちは、今後どう前進すべきかを学ぶことができました。ある意味、この危機は、仕事と生活両方における破壊的変革、デジタルトランスフォーメーションともいえます。そして、現在、そして、将来、働き方がどう変化し、カタチづくられていくかのキーワードになるのが「分散化」と「多角化」です。その際の重要要素は、「順応性」、「柔軟性」、そして、「回復力」です。これらの要素は、現在成功している企業の共通ワードでもあります。これらの要素が念頭にない企業は、論点がズレていると言ってもいいでしょう。
HOK
ケイ・サージェント
(Kay Sargent)の視点
「私のデザイナー歴は35年になります。私のキャリアの中で全てを一から見直す機会があったのは3回で、今回はそのうちのひとつです。」
Kay Sargent
HOK
シニアプリンシパル、WorkPlaceディレクター
未来を見据えて
オフィスにおいて、働く「場」の選択肢があることは人を幸せにし、やる気を引き出すと私たちは考えます。フリーアドレスはそういう意味では今後も機能していくと思います。今の世の中、病院で他の人の近くのイスに座るように言われたらどう感じますか? この状況はオフィスでも同じなのです。最先端テクノロジーや頻繁な消毒作業は、選択肢と安心感を従業員に与えます。スマホの最先端タッチレス操作で場所の予約ができたり、離席すると自動的に清掃員に通知され、スペースが消毒され、消毒完了を知らせてくれたら安心しませんか?
こうした安心・安全な環境では、人はまた「集う」という選択をするのです。人間には回復力が備わっています。危機に直面した際、一歩引いて、現状を把握し、新たな道筋を見出そうとします。しかし、その途上で多くのことも学びます。ハブ&スポーク方式(ハブを軸として放射線状に広がるネットワーク)のように、働く「場」のエコシステムを構築することもその戦略のひとつです。ハブは、人が集う最先端のエンゲージメントセンターであり、イノベーションハブとして機能し、自宅やサテライトオフィスで働く分散型チームによって利用されます。まさにこうした環境づくりが働く「場」に選択肢があるということで、このことはコロナ危機以前から浮上していたアイデアでもあります。
主要な知見
コロナ渦はまさに大きなチャンスとも言えます。従来の一人あたりの占有面積をベースにする効率重視から人間重視のオフィスへの変換です。自発的に働ける「場」、モノのインターネット、人工知能、ロボット工学などがオフィスにも登場することで、直感的操作性に優れた非接触型オフィスの実現が可能になります。現在の車はそういう意味でもオフィスよりも進化しています。この契機をチャンスと捉え、オフィスの変革が正しい方向に進めば、職場環境は大きく前進するでしょう。
Gensler
トッド・ハイザー
(Todd Heiser)の視点
「物理的空間が必要な理由、そして、その空間に目的と意味を組み込むことの重要性について追求する企業が増えることを願っています。」
Todd Heiser
Gensler
シカゴ共同マネジングディレクター
未来を見据えて
コロナ渦で、私はクライアントと当面の対応から将来の課題まで話す機会がよくあります。今後12〜18か月(ワクチン接種前)の間で何が起こるかで行き着く先が明らかになります。オフィスには、従業員の健康とウェルビーイングをサポートする多様なスペースが登場するでしょう。そして、オフィスは、リアルとネットの世界を融合しながら、共通目的のために再び人が集うための「場」として機能していくことが必要です。
今後、働き方は様変わりすると思います。私たちは、その変化を4つの「P」(Purpose=目的、Potential=潜在力、Perspective=展望、Possibility=可能性)で捉えています。高いパフォーマンスを誇るあらゆる企業組織は、「目的」を語るだけでなく、オフィスという「場」の中に組み込んでいます。オフィス再開の理由を考える際に、重要だと思うことのひとつは、デジタル主導の世界で「人間性」をどう引き出すかということです。今後、物理的空間はリアルなソーシャルネットワークのような役割を担うかもしれません。iPhone、ビデオ会議、コワーキングスペースといった要素が仕事を遂行するのに不可欠なツールとなっているように、オフィスはそのツールボックスの中のひとつの「ツール」として利用されていくでしょう。
主要な知見
私たちは、未来を見据え、真に回復力のあるオフィスの設計デザインに注力してきました。まさにこの未曾有のコロナ危機が、将来のいかなる想定外の困難な状況にも柔軟に対応できる回復力がある人間主体のオフィス変革への契機となったと考えています。未来をかたちづくる上でデザインという仕事がますます重要な役割を担うことにワクワクしています。