Wellbeing:ウェルビーングと企業の収益性
仕事場で快適に仕事ができることとビジネス成果との関係
IBMが世界中のCEOに対して、今日のリーダーシップの 最も重要な特質とは何かを特定したところ、彼らの答え は共通していました:キーワードはコラボレーション、コ ミュニケーション、創造力、柔軟性。CEOたちは「常に 自分を変えて成長しながら仕事ができる社員を求めてい ます。そういう社員は変化に対しても適応力があり、他 の人から学ぶという姿勢も持っているからです。」とレポ ートは記しています。このような能力へのニーズに対応す ることも今日企業が直面している複雑な問題の一つです。 イノベーションへの欲求はもはやエリート集団やトップブ ランドだけの問題ではなく、あらゆる企業にとってその収 益性をもたらすための不可欠要素になっています。
そして、CEOたちは今、新たなジレンマに直面しています: コラボレーション、コミュニケーション、創造性、柔軟性 というものがリーダーシップに要求される能力であるとす ると、その測定基準や考え方は過去の多くのビジネスリー ダーたちが学んだこととは異なっているはずです。何十年 もの間、ビジネススクールでは物流やサプライチェーン、 経営分析などを専門的に学んだ若いリーダーを多く輩出し てきました。しかし、最近になって企業はこれらのビジネ ス原則だけでは不十分であると認識しはじめています。そ こには新たな行動を育てるための環境と企業文化が存在 することが極めて重要であるというのです。
創造力とイノベーションを助長するにはハードルの高い新 たな戦略が要求されます。それは組織と従業員のウェル ビーングに焦点をあてることです。 「今日、企業は成功する項目として情緒的、経済的、そして 競争力における優位性を保つ方法として従業員のウェルビー ングに注目しています。」とGallup社のワークプレイスリサ ーチ部門のリーダーであり、ベストセラー本、「ウェルビーン グ」の著者でもあるTom Rath氏は述べています。
Rath氏や他の先導的思想家たちは従業員のウェルビーング とは「ウェルネス」という身体的健康に限定されるものとは 明らかに異なるもので、現在、企業が最も着目している要 素になりつつあると語っています。アメリカでのウェルネス、 健康プログラムは企業サイドによって負担させられる医療関 連コストをうまく管理しようというニーズから生まれていま す。世界の他の地域でも企業や政府はこぞって仕事場での 身体的、精神的な疾病によるコストの増加を抑制しようと もがいています。
ウェルビーングへの挑戦
企業が身体のウェルネス=健康に気をつかう確固とした理 由はそれがコストに直結しているからです。世界中で、心臓、 肝臓疾患、糖尿病、肥満が急激に増加しています。国連 食料農業機構(FAO)によると、メキシコでの成人肥満率 は32.8%でその数字はアメリカの31.8%を超えています。 今、世界中に15 億人もの肥満がいるということです。 Duke大学のグローバル健康研究所によると、少なくとも 彼らの25%は中国だといいます。世界経済フォーラムとハ ーバード公衆衛生大学院の2011年の研究によるとタイプ 2の糖尿病が成人の主な死亡要因であることが明らかにな っています。
「今日、企業は成功するために情緒的、経済的、そし て競争力における優位性を保つ方法として従業員の ウェルビーングに注目しています。」
Tom RathAuthor of Wellbeing
身体の健康が悪くなると企業サイドにとってもリスクが上昇 します。生活や社会のいたるところにコンピュータが存在 し、いつでもどこでもネットにアクセスできるユビキタス社 会の中でかつてないほど人間は一度に多くのタスクを強い られ、心理的ストレスにさいなまれています。小説家であり、 ハーバード大学のリサーチャーであり、教育者でもある Shawn Achor氏は人間の感覚は毎秒11メガビットの情 報を受け取っていると言います。しかし、実際には脳の知 覚部分は40ビットしか効果的にプロセスできないのです。 全米精神協会によると、一つのタスクからもう一つのタス クに移る際には気が散り、それをコントロールするのは大 変むずかしく、精神的なブロックが原因となり、生産性を 40%減少させるということです。
心理的コストに加え、ストレスは世界中で「先進国に広が る疾病」の大きな要因になっています。仕事やツール、使 用するテクノロジーの急激な変化が仕事をさらに複雑にし、 多くを要求し、よりストレスな社会を生んでいます。「どの くらいの量をどのくらいにスピードで」できるかが新たな課 題として浮上し、仕事と生活が融合し、オフィス以外で仕 事をすることも多くなりました。これらの要因によって、ワ ーカーの燃え尽き症候群や他の疾病が発生し、ウェルビー ングを企業のリスクマネジメントの要素として位置づけ、そ のリスク要因を予防していこうという動きがでてきていま す。
イギリスのメンタルヘルスセンターの調査によると、精神 的な疾病就業(身体は動くが精神的に病気)にかかる年 間コストが150 億ポンドだと言います。ヨーロッパオフィ ス安全&健康機関は欠勤日の半分はストレスが原因だと 認識しています。2011年のル・モンド紙のレポートによる と、職場でのストレスは先進国だけでなく、発展途上国に も蔓延しているということです。「アジアや南半球の国々は 現在、心理的、社会的な問題と経済の成り行きが仕事か らくるストレスとリンクしている。」と述べています。
ウェルビーングの楽観的な要因を把握するために、 Steelcase WorkSpace Futuresグループの研究員たち はヨーロッパ、アメリカ、アジアを調査し、ウェルビーン グを育成させる従業員の行動パターンを形づくる際の物理 的スペースの役割とは何かを探りました。Steelcaseの長 年に渡る調査研究とグローバルに広がる多様なウェルビー ングを探求することで、研究チームはある結論に達しまし た。それはウェルビーングが人間の身体的、認知的そして 精神的なニーズを含む多様な側面を統合した一つの体系 的なシステムであるということです。また、人々が一緒に 働く「場」はワーカーのウェルビーングの多様な側面に影 響を与えるようにデザインされることが望ましいとも結論 づけました。
「欠勤や疾病就業、事故などで増加するコストに比例して、 従業員の健康が阻害されると、結果的に企業の収益に影 響を与えることになります。よってその予防に今、関心が 集まっているのです。」とSteelcaseでこのウェルビーング の研究調査をリードしたBeatriz Arantes氏は述べてい ます。また同時に、ウェルビーングを予防策として捉えて 事業戦略にあまり影響を及ぼさないようにすることも可能 であることも知られ始めています。
「身体的健康は大きな不安材料です。しかし、ただ身体的 健康だけにフォーカスすることは全体のウェルビーングとい う意味では効果がありません。企業レベルでいうと、身体 的健康だけに視野を狭めることは好機を逃すことにもなり ます。例えば、従業員のウェルビーングとは、今日、企業 が成功するために不可欠な創造性やイノベーションを達成 するための重要なプロセスの一部でもあるのです。」と Arantes氏や他のSteelcaseのチームメンバーとコラボ したNicholas de Benoist氏は主張します。
進歩的な企業はこう考えるのです。「今日、ある企業はさ らに先進的な方法でいかにウェルビーングを向上させるか に関心を寄せています。もっと創造的で、仕事に集中でき る革新的なオフィスがイノベーションを起こすのだと断言 している企業もあります。知識ベースのグローバル経済の 中で、ウェルビーングに投資をすることはイコール事業を 最適な方法で遂行することでもあるのです。」と。
包括的アプローチ: 身体・心 環境
企業が従業員のウェルビーングに取り組む際、多くの場合 は身体的健康と人間工学からまず始めます。それは従業 員の健康要素、例えば肥満、禁煙、運動などにフォーカ スを当てることに加え、ケガを防ぐための人間工学にも目 を向けます。
1980年代に人間工学が普及したことで、生体力学に対す る人々の理解も深まり、ワーカーの姿勢をサポートする重 要性などが増しました。1980年代はデスクトップコンピュ ータを使用するオフィスワーカーがほとんどであったため、 その静的で固定した姿勢をサポートすることが重要でし た。Steelcaseは画期的な研究を発表し、背骨の動きを 真似するダイナミックなサポートの重要性を説き、人間工 学のための新たな業界基準を築いてきました。
Steelcaseの研究員は「動く」ということの重要性に関す る研究にも着手し、ワーカーが一日の間を立ったり、座っ たり、歩いたりしながら仕事をこなしていくことを推奨して います。Marc T. Hamilton(2007)、Pedersen(2009)、 Stephens(2010)の最近の研究では、長時間座りっぱ なしという行為と肥満、メタボリックシンドロームや糖尿病 などに広がる健康問題との関係に光を投げかけました。長 く、動かずに座っている行為は身体には負担が多く、代謝 機能を低下させ、免疫機能を弱体化させます。一日中座っ た後に例えジムで運動をしてもその負の効果をひっくり返 すことはなかなか難しいということです。
その後、携帯デバイスの登場で人々はさらに長くチェアに 座ることが多くなりました。そして従来のチェアはまだタブ レットなどの携帯デバイスがない時代にデザインされたも ので、テクノロジーの進化は新たなタイプの姿勢を招き、 更なる身体の痛みを生み出しています。
「企業にとって人間工学がまずは最初に浮かぶ項目で す。手に収まったデバイスを見るために首を下げ続ける 行為の結果として起こる上肢、特に首や肩の痛みは一 般的になってきています。」とSteelcaseのシニアエル ゴノミストであるKevin Butler氏は述べています。
Butler氏はこう指摘します。ワークプレイスはさまざ まな姿勢のパレット、つまり「座る」、「立つ」、「歩く」、「腰 掛ける」、「身体をよじる」というような姿勢をチョイス できる多様なワークセッティングをサポートするように デザインする必要があるということです。
「本質的に身体に悪い姿勢は促進されるべきではない のです。私は多くのクリエイティブで、熱気が溢れたワ ークプレイスを見てきました。しかし、そのような場所 でも人間工学が適切にサポートされていないのです。 このことは個人、企業双方にとって決して適したソリュ ーションではありません。」とButler氏は続けます。
人々には人間工学サポート、特に一日を通して動くこと が健康につながることから、動くことを促進する環境、 そして座る際にはチェアは今日の働き方に適した座り 方をサポートすることが必要です。
グローバルな建築設計事務所であるGenslerのリサー チャーやデザイナーもこの問題には同感しています。ウ ェルビーングは複数の側面を持っています。しかし、残 念ながら多くの企業は従業員の身体的な健康を保つた めにある程度の投資をし、それで問題は解決したと思 っています。シカゴのGenslerのリージョナルマネジン グプリンシパルとして、健康とウェルネスセクターで陣 頭指揮をとるNila Rl Leiserowitz氏はこう述べていま す。「会社の中にフィットセンターを設けたら、それで ウェルビーングのすべてに対応できたと考えているので す。しかし、それは一部分にすぎません。肝心なこと はフィットネスセンターでもなく、調節できるチェアで もないのです。そして、物理的スペースに目を向けるだ けでも十分ではないのです。ウェルビーングとは企業文 化、人材戦略、環境を横断的に捉えることで、それは 一つの共生するエコシステムのようなものかもしれませ ん。」
心と身体の関係
企業がますます複雑な問題に直面すると、ウェルビーング には複数の側面があり、身体と心の間の関係であることを 改めて感じるのです。今日、科学者たちは私たちの身体的、 精神的な状態の相互依存と人間の知覚がどのように人間の 認知や感情に影響を与えるかについて研究を重ねています。
私たちの研究員たちは例えば表面がハードかソフトか、荒 いか柔らかいかなどの触覚がそれとは全く関係のない対人 関係に影響を与えているかもしれないことも発見していま す。そして、認知のウェルビーングに影響を与えているもう 一つの要因はノイズです。イギリスに拠点を置くコンサルタ ント会社、The Sound Agencyの会長であるJulian Treasure氏によるとノイズは心理的、生理的に負の効果 をもたらすと言います。
ワークプレイスでのノイズは従業員のストレスホルモンレベ ルを下げたり、記憶力や読解力、また人と交わるという意 欲を低下させたりするというのです。ワークプレイスでの刺 激的なノイズは、例えば、空調、不快な着信音、交通、 建設現場の音、「ピンクノイズ」と呼ばれるサウンドマスキ ング音、特に周りの人の声など、そのノイズの種類はさまざ まです。
「認知ということに関して、多くの調査研究があり、特に騒 がしいオフィスでは最も有害な音は他の人の会話の音だと 言います。」とTreasure氏は続けます。
騒がしい環境は時間の経過とともに悪化する傾向がありま す。なぜなら人々は大きな声で話し始めるとコンバート効果 によって周りも騒がしくなるという実験結果があるからで す。ワークプレイスが騒がしくなることで健康と生産性に も大きな影響を及ぼします。Treasure氏が実施したひと つの研究によるとその生産性は66%も低下したということ です。
それと同時に、彼によれば、オープンに開かれた環境は多 くのタイプの仕事にとって最適であるということです。「一 つの働き方が唯一の方法ということはありません。人々の 働き方にあったスペースを提供することがここでは必要に なってきます。」また、その逆に静かな仕事場は度が過ぎて うんざりすることもあります。しんと静まりかえった場所は すべての音が聞こえて時に威圧的なことがあるからです。
Treasure氏が言うには、解決策は多種多様な環境を提供 し、そこで遂行する仕事やユーザーのために音を意識して それぞれの場をデザインするということです。仕事環境は ただ単に見た目だけを考えるのではなく、すべての人間の 感覚を考慮して、人間の体験のためにデザインされるべき なのです。
「認知過多」が主流になっている今、カリフォルニア大学や 他の大学機関の研究者たちは認知プロセスがいかに環境 と身体の相互作業に関係しているかを研究しています。彼 らの研究によると、人々の集中時間や記憶には限りがある ため、認知機能を環境に持たせた際に人はいかに仕事を 効果的にこなすことができるかも明らかにしています。例 えば、ホワイトボードを搭載して仕事を視覚化できる場を 与えることで情報を整理しやすくなるということもその一つ です。さらに、Steelcaseの研究員たちはテクノロジー対 応型アーキテクチャー家具によって日常的な作業がどうし やすくなるか、例えば機器の電源のオンオフなどの機能に 関しても掘り下げながら研究しています。環境の中に機能 を持たせることができれば、人は他の複雑な問題に取り組 むためにもっと脳の能力を解放できるはずです。
仕事をしていて心地よい
Gallup社のグローバルなウェルビーング研究はパワフルな 身体/心のつながり=仕事に向かわせるものを探るもので した。仕事に向かわないことがその後の診断として鬱病を 引き出し、コレステロールや中性脂肪の上昇を招く主な指 標にもなりました。企業にとってさらに憂慮すべきは世界 中の3分の1のワーカーは仕事の終わる時間を待ち望んで いるという事実です。それによって彼らは退社する時間が 近づくとどんどん幸せを感じるようになるのです。仕事に 集中できないワーカーは生産的でないだけでなく、ストレ スからくる身体的、精神的な問題から企業にとってはさら にコストがかかることになります。日常のストレス要因は「戦
「私たちの研究結果を受けて、私たちはウェルビーン グとは適切にサポートされたソーシャルな環境の中で 健康的な身体と心が年月をかけて少しずつ持続してい くものであると定義しています。」
Beatriz ArantesSenior Researcher, Steelcase WorkSpace Futures
うか、逃避するか」という答えのために常に警戒している 状態でいなければならないという負の状態を生み出してし まいます。最終的にはストレスにさらされることから生ま れるコルチゾールや他の負のホルモン物質がさらに身体と 心を疲れさせ、最悪の状態をつくりだしてしまいます。
生物学的衝動としての感情
ウェルビーングの身体的側面に対して常に多くの注目が集 まることから、Steelcaseの研究員たちは多くの企業が口 を閉ざして語らない感情的側面について焦点をあてること にしました。人々がどのように感じるかは自分の健康と仕 事の両方にインパクトを与えます。「仕事は活動であり、何 かをすることです。感情は私たちの身体と心に行動するよ うに伝えます。心と身体をつなげるものが感情なのです。 人間は自然に進化した生物有機体で、人間が生存しつづ けることができるかは人間を取り囲む環境が安全である か、危険であるかを適切に判断し、行動できる能力にか かっています。危険を感知すると身体は走るか、戦うかで 反応します。その一方で、安全で、協力的な環境であると 感知すると、身体はリラックスし、心では他のことを考え 始めます。」とArantes氏は述べています。
Arantes氏が強調するのは「人間の生存は人間の感情に よって起こる適切な行動に依存しているなら、生物学的に それはどのように導かれるのでしょうか。人間は身体とい う有機体を修復させながら継続的に進化しています。私 たちの心が悲観的な状態の時はこの修復が難しいのです。 ですから、日常生活の中で、この悲観的な負の感情を楽 観的な正の感情に転換することが極めて重要になります。 人間はポジティブで楽観的な感情をサポートする環境に身 をおいた時に、よりコラボレイティブで、生産的で、創造 的に仕事をこなすことができるようになるのです。」
「人間はポジティブで楽観的な感情をサポートする 環境に身をおいた時に、よりコラボレイティブで、 生産的で、創造的に仕事をこなすことができるよ うになります。」
Beatriz ArantesSenior Researcher, Steelcase WorkSpace FuturesPositive
創造型ワークにシフトする
人々の働き方が変化するにつれ、そのニーズも変化します。 ニーズが変化すると、仕事環境もそのニーズに対応するよ うに変化します。オフィスの変革は主にはプロセス型ワー クから創造型ワークへの「場」へのシフトであり、それは ウェルビーングにも大きく影響を及ぼします。創造型ワー クとは繋がること、新しいアイディアにオープンであること、 リスクをとること、そして実験するというプロセスです。心 がストレス状態の場合はこれらの行動を起こすこともでき ません。創造型ワークを実践するにはワークプレイスが今 まで以上に重要な役割を果たし、そこで多くのことが成し 遂げられるようにデザインされなければなりません。
「例えば、ZapposやGoogleのような企業はウェルビー ングに対して感情的なアプローチを採用し、楽しく、創造 的な職場として企業を売り込むことに投資しています。」と Arantes氏は続けます。「彼らはその結果から収益を得て、 このポジティブな社員モラルが人材募集の際の大きな魅力 になっています。」
しかしながら、ほとんどの企業は職場でのウェルビーング を実現するために、未だに直感や試行錯誤に頼っています。 ウェルビーングの研究調査によると、ウェルビーングは人 間工学、空調や他の要素以上にオフィス環境に大きな影 響を及ぼします。そこに欠けているのはウェルビーングに とって重要であると思われる要因や発見を明確にすること と、どのように企業がこれらの要因を環境に適応させるか の実施プランなのです。Steelcaseのチーム目標はまずは この不足しているものを埋めるということでした。
「私たちの調査の前提はただウェルビーングを理解したい という思いだけではなかったということです。」とBenoist 氏は説明しています。
あなたの仕事環境はウェルビーングを 損なう環境ですか?
イノベーターのグローバルコミュニティ、ポップ・テックの キューレターであるAndrew Zoli氏が未来の働き方をテ ーマにした最近の会議上で、参加者たちに仕事がはかどる 場所とはどこかを尋ねたところ、なんと回答は仕事場では ありませんでした。その場所は集中でき、エネルギーを充 電できるカフェやホームオフィス、図書館などでした。そ のグループの中で一人だけ、明確な目的をもって改装され た活気に満ちたオフィスだと答えた人がいました。
その後、この会話が他の多くの人の議論を呼び、オンライ ン上で、また他の様々なフォーラムで仕事がはかどる最高 の仕事環境とはどういうものかについての熱心な論議が 巻き起こりました。作家である、Jason FriedやDavid Heinemeier Hason両氏は新書の「Remoteリモート」 の中で、「人々はもうオフィスを必要としていない」と主張 しています。
ビジネスリーダーたちはこの意見には同感しないでしょう。 遠隔で仕事をすることはある社員にとっては可能な選択か もしれませんが、社員は社員同士で、そして組織とつなが っている感覚を望んでいて、会社に出社することでそれが 可能になるのです。大事なのは人々がそこにいたいと感じ る「場」であるオフィスを創造することです。なぜなら、 その環境の中では人は能力を最大限に発揮でき、仕事を こなすことができるからです。
Steelcaseの継続的な研究調査では、ワーカーが創造的 で生産的であるために何が必要なのかを明らかにし、ワ ークプレイスの問題点を特定しています。
先進的企業は物理的環境に着目し、その環境が社員のウ ェルビーングに重大な影響を与えることを認識しています。 多少の努力でも人々が出社した時よりはハッピーな状態で 帰宅することは可能なのです。
プライバシー
極秘のミーティングなどに静かでプラ イバシーのあるスポットは必要
そういう場所はない
集中
集中ワークができる静かでプライバシ ーのある場所にアクセスできることは 重要
静かなスペースにアクセスできない
基本的な項目を満たす
景観のよいスペースがない
自然光がない
空調が悪い
環境の悪さのために一日のうちに最 大30分は時間を無駄にしている
休息
充電するためのカジュアルなスペース が必要
オフィス内に休息する場所がない
相互に連結するワークプレイス チョイス+コントロール
この骨組みは相互に連結する社会に適応するワークプレ イスを創造し、評価する方法論を示すものです。「個人」 、 「グ ループ」の両方の仕事をしなければならないということを 表しており、個人のスペースは決められ、所有されるもの、 チームスペースは共有するものであるというパラダイムを 打ち破るものです。相互に連結するワークプレイスは集中 ワーク、コラボレーション、ソーシャルな交流、そして学 習といった活動をサポートし、人々の身体的、認知的、精 神的なニーズを考慮するべきであるという考え方が根本に あります。
6つの側面 職場での ウェルビーング
Steelcaseはウェルビーングを物理的環境のデザインによ って影響をうけるであろう6つの側面にわけて、定義して います。この 6つの側面に共通する基本的概念は Steelcaseが掲げた「相互に連結するワークプレイス」で 社員にどこで、どうやって働くかのチョイスとコントロール を与えるというものです。
「ウェルビーングを育成するためには、社員がチョイスでき る多種多様なセッティングを与えることが必要です。今ま でのワークプレイスは効率重視に設計され、すべての人に あう「フリーサイズ」が適用されていました。しかし、こ の環境は社員がその働き方にあわせて適切なセッティング をチョイスするというものではありません。社員は選択肢 を与えられて初めて、自由裁量権を持ち、ストレスなく、 仕事に集中できるようになります。」とBenoist氏は述べ ています。
チョイスとコントロールを提供するには下記の3つの方法 があります:
場のパレット
ゾーンやセッティングが相互に関係しあうエコシステムで、 ユーザーのさまざまなワークモードをサポートする多様な セッティングを提供すること
姿勢のパレット
マルチにテクノロジーを活用するワーカーに「座る」、「立つ」、 「動く」という姿勢を促進すること
存在のパレット
人間同士の相互交流を高めるようにデザインされた場所で 自分の存在がリアル、バーチャルに混在していること
1. 楽観性 – 創造性と イノベーションを 助長する
楽観性には生活の様々な領域において肯定的な結果をも たらす以上の効果があります。それは過度に不安になるの ではなく、新たなアプローチを熱心にトライし、見つける まで探索しつづけることです。つまり、現在に楽しみを創 りだし、未来に可能性を見いだすと同時に肯定的にさまざ まなことを解釈したり、思い出したりすることでもあります。
最近のカリフォルニア大学の研究者によると、人間の楽観 性と自尊心、達成感(人生において前向きな変化をもたら す能力)というような感覚は遺伝子と関係があることが分 かりました。しかし、運命としての遺伝子ではなくても、 行動や人間関係、環境というものがそれと同じくらいに影 響を与える可能性があることも指摘しています。感情は楽 観性に向かう私たちの傾向を左右するものとして大きな役 割を果たしています。
楽観性は企業が今日必要とする創造性やイノベーションを 生み出す仕事には不可欠な要素といえます。それは全体像 を見ながら他の人とオープンにアイディアを模索したり、よ り多くのリスクをとって困難な状況に直面したりというよう な様々な行動につながります。また、人々をもっと開放的 に変化させることも可能にします。このように理解すると、 楽観性とは企業の俊敏性と回復力のためには重要な意味 を持っていることになります。なぜなら今日の経済の中で 楽観的な社員はより生産的に働いている比率が高いからで す。
「楽観性とはもしかしたら21世紀の最も重要な仕事スキル かもしれません。企業は多くの不安定さとストレスに直面 し、その恐怖や不安を超えて成長できる人がこの世界で繁 栄できる企業文化を築き上げる人たちなのです。」と Benoist氏は述べています。
ワークプレイスで「楽観性」を育む
楽観性を高めることで常に試みるという態度が培われ、肯 定的な方法でブランドや会社の遺産を築き、企業としての 進化や可能性を強化します。「楽観的な社員は固定された、 どれも同じようなスタンダード化された環境ではなく、自 分でコントロールできる環境を望んでいるのです。」と Benoist氏は主張しています。
デザインする上での考慮点:
- どこでどうやって働くかのチョイスとコントロールを提 供する。
- 強制的に押しつけられた標準的なワークプレイスでは なく、スペースのパーソナル化やカスタム化ができるス ペースを創造する。
- 仕事をする上で社員がサポートされていると感じるセッ ティングを与える。
- 開放的なレイアウトを通して環境を可視化することで人 々の間の信頼性を構築する。
1. マインドフルネス – 完全に集中し、「今」に全力を 傾ける
マインドフルネスとは余計な評価や判断を加えずに、その 一瞬に没頭し、全力を傾けることです。今日、人々はテク ノロジーによって、ミーティングに参加しながらもメールに 夢中になるなど、同時にマルチにタスクをこなすことがで きるようになりました。
今、ビジネスの場でのマインドフルネスが急速に普及しは じめています。企業はテクノロジーやマーケット、グロー バル競争への劇的な変化が変動や不確実性、混沌や曖昧 さを生み出していることに気がつき始めています。この現 実の中で、会社員はストレスの多い状況にさらされていま す。そして、そのストレスをうまく対処できる新たなタイプ のリーダーが望まれています。
心理学者であり、作家でもあるMihaly Czsikzsentmihalyi 氏はその著書、「Flowフロー」の中で「幸福」と「創造性」 の研究をしたフローの概念を引用しています。これはマル チタスクに対してのアンチテーゼで、マインドフルネスによ る効果を啓蒙しています。つまり全力で「今」自分がやっ ていることに集中し、楽しむ感覚に完全に浸ることを説い ています。
「マインドフルネスとは心と身体が一体になって時間が過ぎ るのも忘れてしまうほど何かに取り組むことです。それは 自分一人だけで達成するものとは限りません。例えばジャ ズセッションのように何人かが今という一瞬に集中して演 奏をすることがあるように、人々はマインドフルネスの状 態の中で他の人と一緒に仕事をすることがあるのです。」
ワークプレイスで「マインドフルネス」を育む
「ワーカーが望む環境とは彼らのストレスフルな仕事生活を サポートし、一瞬一瞬を全力で仕事に没頭できるスペース です。」
デザインする上での考慮点:
- デバイスを通してではなく、他の人と一対一で目を合わ せながら対話をすることができるスペースを創造する。
- ワーカーが感覚的刺激をコントロールでき、気持ちを上 げたり、下げたりすることをチョイスできるような場を デザインする。
- 材質、素材、カラー、照明、景観を通して、落ち着く「場」 を提供する。
- 外部からの邪魔や気が散ったりすることがないような方 法で人と繋がることができる「場」を創造する。
3. 本物 自分らしくある
「ディルバートビル=Dilvertville」や「マッドメン=Mad Men」という1960年代のニューヨークの広告業界を描い たテレビドラマシリーズで広まった過去のワークプレイス では職場で傷ついたり、感情を表に出すのはタブーとされ ていました。「戦うか逃げるか」の高ぶる感情で、多くのワ ーカーは完璧な口実をつくったり、無理に期待される行動 をとったりすることで自分自身を守ることに慣れてしまいま した。この状態は最終的には欲求不満、憤り、不健康な 行動を引き出します。
対照的に、ウェルビーングは「個」の表現の豊かさによっ て養われます。それは仕事場やプライベートでもあなたが 何者であるかを表現する自由という権利です。
10年以上にも及ぶGallup社の調査は仕事場でのウェル ビーングで最も重要な要素は職場での友人をつくるという ことだと明らかにしています。職場での人間関係は企業へ の献身的コミットメントをより強固なものにします。親しい 友人をつくったり、肯定的な関係を築くには人を信頼し、 自分らしくなければ不可能です。「個人よりも集団を重んじ る東洋文化においてさえも、自分らしさと職場での個の表 現はウェルビーングにとって重要な要素だと認識されはじ めています。」とArantes氏は言います。
ワークプレイスで自分らしさを養う
「ワーカーは個のアイディアや価値観を自由に表現でき、企 業文化の担い手であると感じられるスペースを望んでいま す。そして、経営者は基準や本物感を打ち立てる一方で、 働き方にあわせてカスタマイズが可能なワーク環境やソー シャルなセッティングを通して企業メッセージを強化して います。」とArantes氏は述べています。
デザインする上での考慮点:
- 人々が自由に「個」を表現でき、アイディアを共有できる スペースを創造する。
- まるでホームのような雰囲気のインフォーマルで、自由な 環境を取り入れる。
- 個の価値を企業ブランドの価値へと変換できるようなス ペースをデザインする。
4. 帰属意識 – 他の人とつながる
意味のある人生とは「人と人」とのつながりから生まれて います。職場でのソーシャルなつながりは人を励まし、他 の人に役立つことが人に肯定的な感情を生み出します。 心理学者であるアブラハム・マズローは人間の普遍的欲求 を分類し、5段階のピラミッド型欲求を提唱しました。そ の中で生理的欲求(生死に関わる食べ物、水、睡眠など) や安全欲求に次いで3番目にくるのが仲間や集団に帰属 する親和欲求です。多数の研究や実験が明らかにしてい るのは、人は人を必要としているという事実です。Gallup 社のデータでも職場に親しい友人がいたり、肯定的な関 係が築けることは非常に重要で、最終的に会社への忠誠心 (仕事への熱意)を強くすることにもつながることを指摘し ています。
人間関係は会社やブランド、そして仕事の目的に対する熱 意をより強固なものにします。人との意味のある関係がな いと会社はどうでもいいということにもなります。その意 味からも、企業が積極的に採用しているモバイル化やオル タナティブワーク戦略、テレプレゼンスというような方法 は社員の帰属意識をなくさないように慎重に計画されなけ ればなりません。
「モバイル化は極めて前向きの戦略として、働き方をより 柔軟にし、ビデオ会議は特にグローバル企業では日常茶 飯事になりました。しかしながら、その状況の中で、企業 は社員が人との意味のあるつながりを持ち、結局は人が最 も価値ある資産であることを認識すること。そして、社員 は自分より大きな何かの中心にいること、そして組織の他 の人々が自分を気にかけてくれていることを認識するべき なのです。」とArantes氏は述べています。
ワークプレイスで帰属意識を養う
仕事がますますモバイルに、そしてグローバルになる中で、 帰属意識を保つことはかつてないほど難しくなりました。 先進的企業は同僚とのコラボレーションも容易で、テクノ ロジーにも簡単につながるワークプレイスを実現すること で社員が積極的にオフィスを働く場としてチョイスできる ように意図的に仕掛けています。」とArantes氏は言いま す。彼らはコミュニティとしての平等感を生み出し、内勤 ワーカーはもちろんモバイルワーカーや遠隔にいる社員が 帰属意識を持つような努力をしています。
デザインする上での考慮点:
- そこで毎日働いていない人のために視覚的に温かく迎え るようなエントランスをデザインする。
- 一人で、チームで仕事をするモバイルワーカーや内勤ワ ーカーのために必要なものが完備された十分なスペー スを提供する。
- ビデオ会議に遠隔から参加する人々がその部屋や壁な どに表示しているコンテンツを部屋にいる人と同じよう に見たり、聞いたりできるように部屋のレイアウトを工 夫する。
- リアル、バーチャル上でのソーシャルな交流のためにイン フォーマルなエリアをデザインする。
5. 意義 – 明確な目的を持つ
人々は自分の強みと能力をフル活用することが他の人にど う影響を与え、会社に貢献できるかをもっと理解すべきで す。Gallup社のシニア科学者であり、「ドクター・ハッピー ネス」というニックネームを持つEdward Diener氏はこ う述べています。「コーリング・オリエンテーション」とい う言葉を用いて、人が何かに夢中になる状態が最もやりが いのあり、充実した状態だと説いています。
目的意識は信頼性とコラボレーションに基づいた回復力の ある企業をつくりあげ、組織全体に「出来るというパワー」 を植え付けます。
「信念とはコミュニティが共有できる日常の習慣的行為で、 意味のある人生と会社に勤めている意義は両立しながら、 補完しあいます。自分や周りの人が同じ場所で何かに夢中 になって仕事をすることで同じものを信じ、共有した時に 初めて、ハーモニーが生まれます。」
「ブランドとは顧客にだけ向かって発信されるものではな く、社員に対してもブランドが何を意味するかを発信し、 社員はその一部を形成していることを理解し、日常の仕事 の中で常に心に留めておくべきものです。」とArantes氏 は続けます。
「何を成し遂げたいのかの共通の理解がなければ、同じ目 標を持ち、達成する方向に皆を動かすのは難しくなります。 人は自分がしている仕事は無駄ではなく、何かの役に立ち、 価値があると信じたいのです。グループであっても同じ目 標と意義のもとに動くなら、物事はより迅速に進むことが 可能なのです。」
ワークプレイスで意義を養う
「時間の使い方や正しい方法で正しいことをどう行うかをき ちんと考えることはウェルビーングの効果を大きく左右しま す。意味のある目的を達成できるように意図的にデザイン されたスペースは個人のパフォーマンスや企業の収益に大 きな影響を及ぼします。」とBenoist氏は主張しています。
デザインする上での考慮点:
- 企業のブランド、目的、沿革や文化を広め、促進するスペ ースを受付まわり以外にもつくる。
- 思考や進捗状況を可視化するために不動産の縦のスペー ス活用に投資する。
- リアルタイムの情報を表示するためにテクノロジーを活 用する。
- ワーカーが一人または人と一緒に生産的に仕事をするため に自由にチョイスできる「場」のエコシステムを創造する。
6. 活力 – 立ち上がって動く
心と身体が密接な相関関係にあることは科学的にも解明 されはじめてきました。脳科学ツリー科学現象のエキスパ ートであり、米国国立衛生研究所の神経科学者でもある Candace Pert博士は1997年の著書、「Molecules of Emotion=感情分子」の中で、人間の身体は生体の細胞 の表面にある受容体とアミノ酸が結合したペプチドが人体 のあらゆるシステムを動かし、所謂「知性としての心身」を つくりあげていると説いています。
活力の科学を探求する中で、欧州糖尿病協会やニューヨー クタイムズなどが最近の医学研究の中で発表した長時間座 っていることの負の影響への意識が高まっています。無活 動の研究分野での第一人者であるマヨ・クリニックの James A. Levine博士は「その意識の高まりは医療関連 コストが莫大だからという理由です。」と述べています。
筋肉が動いていない状態は栄養が脳にまわりにくく、覚醒 にも影響を及ぼすなど代謝への悪影響を招き、心身の危 険性に関わるということです。
身体を動かすことは明らかに仕事中の心身への活力を支え るためには不可欠な行動ということになります。「人は動く ことでアイディアを表現でき、異なる姿勢をとることで心 が刺激され、健康的な環境に身を置くことで人は動き、よ く食べ、運動をすることができるのです。」とBenoist氏 は主張しています。
それに加えて、仕事環境での感覚的な体験も重要になりま す。人間の感覚と神経を常に活用しながら、私たちはスペ ースの中でモノや人に触ったり、光と音など心身への刺激 を感じながら相互に交流しています。刺激は直接的で時に 否定的や肯定的な結果をだしながら、人間は本能的に気 持ちがよいと感じる「場」を求めて環境をチョイスし、コン トロールしているのです。
「社員をオフィスに向かわせるためにはそこに仕事をサポー トするすべてのツールが備わり、ワーカーを最適にサポー トする環境があるということです。それは一人での作業、 グループでのコラボレーション、気持ちよい空間や外での 食事ができることです。ワーカーが動きながら仕事をでき るようにサポートする「場のパレット」を提供することはワ ーカーの活力を持続させるという点からも必須です。」と Arantesは続けます。
ワークプレイスで活力を養う
人が空間をどのように感じるかはその行動にも大きな影響 を与えます。ワークプレイスに投資することで従業員の態 度や行動を変化させ、仕事に対する意欲やパフォーマンス を極めて短期間で向上させる新しい雰囲気をつくります。
デザインする上での考慮点:
- 感覚的刺激レベルをコントロールできる選択肢を与える エリアを設ける。
- 様々な体格、嗜好、ニーズに合わせられ、一日のうちに身 体が動くことを可能にする調節し易い家具を使用する。
- ヘルシーメニューを提供したり、コンテンツの表示が可 能なカフェを設ける。
- 日光や景観、換気や中庭など自然を最大限に取り入れる。
- 中央に配置した階段、アウトドアのウォーキング用散歩 道、自転車用道路など、アクティブで健康を促進するラ イフスタイルをサポートする。
人々のパフォーマンスを増幅させる
IBM社が実施したCEOを対象にした研究調査で判明した ことは、より恊働的、柔軟性が高く、最終的にイノベーシ ョンを導く組織をつくる際に、そのプロセスを決して人事に 任せてはいないという事実です。企業のパフォーマンスと 深く関わる重要事項であるため、経営サイドが一体となり、 このシフトに向けて動かなければならないと認識していま す。
この目標をより重要視するために、大きな牽引力となった のが事業戦略へのウェルビーングの取り込みです。企業サ イドは人に多大な投資をし、時間をかけて前向きなROI(投 資に対して得られる利益の割合)を期待しています。社員 のウェルビーングが収益での成功に不可欠であることをき ちんと理解している人々にとっても潜在的リターンが高いの です。逆に言うと、社員のウェルビーングを損なう不適切 でサポートされていない仕事環境は人々の可能性を不当に 扱うという意味でその結果がもたらす負の産物は大きいも のになります。
「思いもかけないイノベーションを生み出すために、企業は これまで以上に優秀な人材を必要としています。それはい かに人間の能力を開花されるかにつきます。過去のリーダ ーたちは社員のウェルビーングがもたらす影響など理解し ようとしている人も非常に少なく、それが今や急激に変化 してきているのです。考え方そのものが今までとは全く違 うのです。」とArantes氏は言います。
ウェルビーングとは今日のビジネスでの 競争優位の源泉です。
ウェルビーングとは今日のビジネスでの競争優位の源泉と もいえます。それを達成するにはワーカーは心身共に健康 であり、生産的で前向きな行動を起こすような感情能力が 育つ環境の中で自分自身が成長しつづけることが要求され ます。仕事でのウェルビーングのために必要なものを適切 に提供することによって、社員が仕事に深く従事できる「最 高の場」を創造することができます。
企業全体を包み込むウェルビーングの実現は永続可能で す。前向きという精神は人に簡単に伝染し、個人やチーム、 そして企業のパフォーマンスを増幅させることにつながりま す。
ウェルビーングのソートスターター アプリケーション コンセプト
私たちは研究調査によって導きだされた発見をもとに、人々の身体的、認知的、感情 的ニーズを考慮しながら、刺激を与え、人の動きを促進する様々なレイアウトプランを 開発しました。
ウェルビーングを促進するプランニング
職場でのウェルビーングを達成することとはソーシャルな仕事環境の中でワーカーを適切にサポートし、心身ともに健康 的な状態を持続させることです。ひとつのタイプのスペースだけではこれを達成することはできません。
楽観性
新しいことを試したり、想像力や創造性を刺激し、能力を 最大限に引き出せるように個人やチームで容易に移動、変 更できるスペースを提供する。
マインドフルネス
個人での集中ワーク、1対1での作業、コラボレーション やチーム作業などに対応する多種多様なセッティングを提 供し、邪魔を最小限にし、ワーカーが仕事に集中できる環 境を創造する。
本物
個人やチームがそれぞれのワークスタイルに最適な環境を 自分たちで選べるようにして、スペースを通して社員の個 性を表現する。また、社員がデスク上、コンピュータ上、 タブレットやスマホ上でパーソナルなアイテムを表示できる こと。
帰属意識
個人的、そして専門分野での繋がりを促進するようなスペ ースを提供する。相互に繋がるスペースとは直感的に使用 でき、同じ場所にいても、分散していてもすべての人が平 等に繋がるスペースです。また、繋がることを強化するた めにメディアウォールのような埋め込み式のツールも活用 し、スペースに配置する。
意義
リアル、バーチャル両方でコラボレーションができるような 「場のパレット」や「存在のパレット」を考慮し、分散して いるワーカーも含むすべての人が恊働できるスペースを創 造する。また、楽しく人が相互に交流できることを重視し、 その行動を助長する企業姿勢がわかるソーシャルなスペー スも組み込む。
活力
動きを助長するスペース、「座る」、「立つ」、「腰掛ける」、「ゆ ったりもたれかかる」などの姿勢の選択肢やスペース中を 歩きまわることを推奨するようなインドア、アウトドアでの 多種多様なスペースを配置すること。身体を動かすことで 心身共にエネルギッシュになり、脳や感覚を刺激し、覚醒 状態を改善し、より集中できるようになる。
ウェルビーングを考慮したレイアウトプラン
プロジェクトスタジオ
アナログ、デジタル両方でのコラボレーションやコンテン ツ共有、アイディアの創造などを行うためのプロジェクト チームや少人数のグループをサポートする没入型共有スペ ース。
壁は情報を表示する縦の平面として活用し、ア ナログ、デジタル両方でのコラボレーションを 促進します。チェアは回転式なのでユーザーは お互いに目を合わせながら、マルチの情報表示 にも容易に目を配ることができます。
適切な場所に設置された高精細のテ レプレゼンス用家具はリアル、バーチ ャルでのミーティングを量的、質的に 強化し、イノベーションを生み出す 「場」を提供します。
可動式家具はインフォーマル な会話や姿勢を変える機会 を増やします。
カフェ
インフォーマルでソーシャルなセッティングは人を繋ぎ、人 間同士の信頼を築きます。人がソーシャルに交流し、モバ イルワーカーが帰属意識を感じ、健全な人間関係が育ち、 遠隔にいるワーカーとの距離の差も感じないで仕事ができ る環境を提供します。
インフォーマルに交流したり、ミーテ ィングができる多様なセッティング が用意されています。
ノマディックキャンプ
モバイルワーカーが立ち寄って、集中して仕事をしたり、 コラボレーションするために多様なセッティングを配した エリア。モバイルワーカーや遠隔にいるワーカーのために 「場のパレット」や「姿勢のパレット」を考慮したソリュー ションで、会社というコミュニティへの帰属意識や社員が 企業のブランドや文化につながる「場」を提供しています。 共有スペースは温かく人を迎え入れる雰囲気を醸し出し、 自由に什器を選び、自分なりにレイアウトでき、一時的に スペースを所有している感覚を与えます。
プライベートオフィス
ユーザーの個性や専門性を表現できる個人用プライベート スペース。ユーザーのニーズに合わせて仕事を視覚化した り、仕事に集中できるようにベストな方法でスペースを自 由に創ることができます。
音響的にもプライバシーが確保されたス ペースは集中ワークから1対1のミーテ ィングへと瞬時にシフトが可能なように 工夫されています。
パティオ
魅力的な景観や自然へのアクセス、「場」、「姿勢」 、 「存在」 のパレットが考慮されたセッティング。ユーザーが仕事内 容に応じて場をチョイスできるようにすることで、スペース 中を動きながら仕事ができます。多様なセッティングは集 中ワークからコラボレーションまで1日に必要なワーカー のニーズを的確にサポートします。
リトリート
人の側で一人で仕事をしたり、周りがざわざわした中でカ ジュアルに対話ができるインフォーマルなスペース。外の 景観やアートなどがかかっていることなどが望ましいです。
騒がしいところでは快適に仕事ができ ない人はここに来て、一人でゆったり 仕事をすることができます。
イノベーションスウィート
アイディアを微調整したり、創造力を引き起こしたり、物 事を客観的、論理的に考える批判的思考方法を活性化し たりなど、革新的なイノベーションプロセスを実践できる スペース。企業内でのイノベーション文化の構築をシンボ ル的に可視化しています。
アンクレイブ
集中し、小休止し、エネルギーを回復できる小規模なプラ イベートスペース。
居住者地区
ツールが装備され、ユーザー自らがコントロールできる個 人用のスペース。ユーザーはデスク周りをパーソナル化で き、スペースを快適に調整できます。全体のゾーンは集中 ワークからコラボレーション、タッチダウンの作業までユ ーザーの様々なニーズをサポートし、ワーカー自身が生産 的に仕事をこなせる「場」をチョイスすることができます。
デスク上で収納用アクセサリーやフックを使用することで雑然と したデスク周りを整理整頓したり、プライバシー確保のための 間仕切りとしての役割も果たしています。高さ調節付きデスクは ワーカーのニーズや嗜好を考慮しながら、身体を動かすことも 促進し、精神的にリフレッシュしながら、仕事ができます。
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