ウェルビーング

体系化が求められるより安全なオフィス

オフィスでの従業員の健康と安全、快適さの実現に向けての多面的な枠組み

所要時間 9分

アジア太平洋地域での新型コロナウイルスの感染状況やその対策は、国によってもさまざまである。インド、マレーシア、オーストラリアの一部地域では慢性的なロックダウンや移動規制命令(MCO)が未だ実施されている一方、中国では日常生活がほぼ戻り、経済は急速に回復し続けている。こうした多様な状況はオフィスに戻りたいという願望においても同様である。オフィスに人が戻り始めるとコロナ禍以前の行動に戻ってしまうのが人間の本能とすると、オフィスでの安全性重視は引き続き優先されるべきだろう。最優先事項としては空気質と安全プロトコルの順守であり、従来の消防法とかに加え、ウイルスの蔓延防止法などより包括的なアプローチが必要になると思われる。

Hybrid Safety

より安全なオフィスづくり

当社は、スペース設計や製品デザインのリーダー、ウイルス空気感染の研究者、仕上げ材のスペシャリストなどの専門家たちとの意見交換とデータ解析とを統合しながらオフィスでの健康と安全に向けて多角的な対策を講じている。その結果として生まれたのが上記の5つの領域に焦点をあてた枠組みである。これはコロナ禍だけでなく、毎年の季節性インフルエンザなどの時期にも適応できる。季節性インフルエンザもコロナ同様、病欠や生産性の低下を引き起こし、企業の損失コストや業績に及ぼす影響は莫大である。

健康面 + 安全面での

新たな優先事項

73% 室内空気質
73% 安全プロトコルの順守
72% 施設の清掃・衛生
71% 物理的距離 + 仕切り
69% 密集度
66% 来客用プロトコル
59% フード/ドリンクの衛生状態

2020年9月実施のSteelcase 働き方診断調査より

当社は、MIT の教授であり、流体力学疾病伝播研究所の所長であるリディア・ ボロウイバ博士の協力を仰ぎ、オフィスでの疾病伝播の研究に着手している。 同氏は BMJサイトで、人、空気、表面、空間という側面からのより包括的なアプローチを取ることで、空間の利用率を最大限に上げながら感染のリスクを最小限に抑えることが重要であると述べている。

人間の行動

香港の健康保護センターやマレーシア保健省、日本の厚労省など政府の保健機関が、企業に対して新型コロナウイルス感染予防策の基本方針を公開している国もある。同方針には従業員に対するワクチンの無料接種、人々の行動変容、徹底した衛生習慣、体調不良の際の自宅での待機、物理的距離の確保、マスク着用義務などが網羅されている。

具体的な対策は企業によっても異なるが感染対策の徹底が行動変容を促す。

また、国の感染症対策方針によっては、手洗いや衛生状態を維持するなどの衛生に対する意識がコロナ禍だけでなく長期に及ぶことで大きなメリットがあると示唆しているところもある。 あらゆる病原菌は接触感染から起こる可能性が高いため、徹底した手指衛生が風邪や季節性インフルエンザなどの感染リスクを抑えることにもつながっている。

職場で衛生・清掃用品を目に見える場所に設置することで社内での衛生習慣を培う雰囲気をつくり出す。

濃厚接触者追跡、健康質問票、検温に加え、気分が悪いときは健康観察、自宅待機の要請などを従業員に徹底させることも企業としての責任である。

従業員の行動変容に向けては透明性や可視化が鍵となる。雇用主が会社と従業員を守るために最大限の対策を講じていることを知らしめることも必要である。

空気の環境管理

飛沫感染(エアロゾル感染)が主に新型コロナウイルス (インフルエンザ A、SARS、ウイルス性髄膜炎などのウイルスも同様)の感染経路であることが判明したため、より安全なオフィス環境を構築するにはオフィスでの換気は欠かせない。 11 か国、32,000 人以上を対象に実施した最新実態・意識調査の結果からも従業員の最大懸念事項は安全・安心であることが明確になっている。換気の徹底は新型コロナウイルスやインフルエンザなどのあらゆる空気感染の蔓延を予防するのに役立つだけでなく、健康維持や山火事、大気、アレルゲンなどによる汚染予防にもつながることになる。

写真提供:Bourouiba Research Group

健康的な室内環境に欠かせないのが温度、湿度、空気の流れを適切に管理することである。新たなオフィススペースを構築しようとしている企業、空調システムの設備業者は、空調システムの専門家の協力を仰ぎながら、窓に換気口を設置して外気を取り込むなど空気中でのウイルス拡散を抑制する対策を講じる必要がある。

しかし、空調システムで調整できない場合などはどうすればよいだろうか? 空間の密集度を減らし、適切な対人距離を保つことで飛沫が人に届かないように工夫するしかないだろう。

世界屈指のバイオテクノロジー研究機関、米国立バイオテクノロジー イノベーション センターが発表した研究では、部屋やダクトに設置された高効率フィルター、自立式空気清浄機、紫外線殺菌装置(UVGI)も空気環境対策装置として有効であると認めている。また、米国暖房冷凍空調学会 (ASHRAE) は、最新のHVAC フィルターを採用したり、外気を取り入れることができない場所には、浄化機能を装備した機器の使用を推奨している。

移動可能な空気ろ過機器は、部屋全体からデスク周りでの使用までさまざまな広さをカバーできる。Steelcase では最近、空気清浄機などを開発、製造するクリーンルーム ソリューションのグローバルメーカーである Clean Rooms International と協力してオフィス環境への空気清浄機の導入を開始した。例えば、同ブランドの Guardiair™ は、米国環境科学技術研究所(IEST)公認のHEPA(高効率微粒子空気)フィルターを内蔵し、99.99% のウイルス除去率を誇る。Wynd® Personal Air Purifierは、医療用フィルターを内蔵し、カビ、バクテリア、汚染物質を取り除きながらより安全で快適なプライベート空間をつくることができる。

家具レイアウト + 製品デザイン

オフィスでのウイルス感染予防とより安全なオフィスづくりを目指すには、バランスを考慮した新たな戦略が必要になる。

密集度 – スペースにいる人数と利用率に基づいてスペース管理をする。

規則性 – 対面を避けるように家具の配置と向きを変更し、空気清浄機や換気口からの空気の流れを調整する。**

分割 – 距離を確保できない場所では仕切りを利用する。

安全・安心は最優先される項目としても、同時に人を惹きつけ魅了する「場」の演出も不可欠であることが調査から分かっている。

オフィス再開の意義のひとつは、従業員同士の円滑なコラボレーションである。よって感染対策を講じながらも人を魅了する雰囲気を創りだすように共有スペースは設計されなければならない。コラボレーション と人が交流するソーシャルなスペースをオープンな中に配置することで、人員数に合わせて空気の流れを調整したり、スペースにより柔軟性を持たせることが可能になる。ソファ等も可動式にし、対人距離を確保するために簡単につけたり離したりしながら対面を避けるような家具配置に変更したり、間仕切りでスペースを仕切ったり囲むこともできる。

また、センサーテクノロジーをオフィス全体に設置することで企業はデータでスペース利用率や利用状況を監視、管理し、密集度が高くなるホットスポットの特定や調整も可能になる。スペース予約システム、非接触の水栓やドアノブなどを採用することでオフィスはより安全になる。

仕上げ・張り地の性能

柔らかな張り地は、自宅にいるような心地よい雰囲気をもたらす。研究によると、布張り地はコロナウイルスの伝播経路になりにくいという。Lancet Microbe誌 に掲載された研究によると、コロナウイルスは、つるつるしたガラスや金属などの非多孔質な物体の表面よりも布のような多孔質の表面の方がウイルスの付着時間は短い傾向があるという。 .

当社は、ウイルスがオフィス家具の仕上げ・張り地にどれくらいの時間生存することができるかの調査を独立専門機関に依頼した。 ISO 18184 および OC43(新型コロナウイルスの ASTM規格)を使用しての結果は次の通りである:

2時間後 arrow pointing right ポリウレタン生地からウイルスは検出されず。
12時間後 arrow pointing right 100%ポリエステル生地からはウイルスは検出されず。
24時間後 arrow pointing right 100%ウール生地で検出されたウイルス量は93.6%減少。

つまり、上記3種類の生地でウイルスはほとんど検出されなかった。インフルエンザAなどのウイルスは、多孔質材と非多孔質材で同様の生存期間を示し、繊維はウイルスやインフルエンザの主要な感染経路にはなりえないという主張をさらに裏づけることになった。

過去 24 時間以内にコロナウイルス、インフルエンザ、その他の病原菌に接触感染したと思える場合には、消毒は依然として威力を発揮する。しかし、通常、感染リスクを下げるには定期的なクリーニングで十分であろう。

ウイルスまたはバクテリアを抑制する特性を持つ素材を多層にすることでその特性を強化することも良い方法である。例えば、銅の超抗菌性は科学的にも実証されている。米国環境保護庁(EPA)によると、銅が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に有効であることを示す研究もある。ドアノブのような接触頻度の高いエリアには銅を使用したりするなど清掃までの期間に表面を介してウイルスが増殖しないようにしよう。

清掃と消毒の習慣

職場での表面を介してのウイルス感染を軽減するために下記の3 つの項目を考慮しよう:

– 1日のスペースの利用人数は?

– 表面に触れる頻度は?

– 清掃の頻度は?

これらの 3つの項目を念頭に設計すると、会議室やミーティングスペースのテーブル面やチェアのアーム部、会議室のドアノブなど最もリスクのある接触頻度の高い表面の仕上げ材をより慎重にチョイスすべきことがわかる。チェアのシートやベース、モニター、壁、床、テーブル脚など接触頻度の少ない表面では感染リスクははるかに低くなる。

特に人が頻繁に通るエリアの清掃はより頻繁に、従業員に目に見える方法で行うことが社内での安心感にもつながる。また、過去 24 時間以内に感染者及び濃厚接触者が発見された場合には消毒が推奨される。

「一般的な消毒剤で定期的に表面を拭いてください」

疾病管理予防センター (CDC)

しかし、科学者は消毒剤や抗菌製品の過剰使用に対しても健康や環境被害につながる可能性があるとして警告を促している。

長期的な視点で考える

従業員がオフィス再開に向けて望むのは「安全・安心」である。その安全対策を目に見えるカタチで実行に移さなければならない。人間の行動、仕上げ・張り地の性能、清掃 + 消毒の習慣、家具レイアウト + 製品デザイン、空気の環境管理などより多面的なアプローチをとることが、将来のあらゆるウイルス蔓延予防策となる。目指すは、すべての従業員にとって快適であること、そして、予測不能な社会の変化に柔軟に迅速に対応できるオフィスづくりである。

出典元:
*オフィス再開に向けての世界的実態調査、Steelcase、2021 年 3 月
** 健全な教育の推奨事項、リディア・ ボロウイバ博士、MIT、2020 年 8 月

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