世界中で外出規制や外出自粛の緩和が進む中、多くの企業はオフィスの再稼働や従業員の本格的職場復帰に段階的に動き出している。Steelcaseでは、今回のグローバルな危機に対応するために、社内に組織横断型チームを組成し、COVID-19対策(新型コロナウイルス感染症対策)を積極的に講じている。そのチームを率いる同社戦略担当副社長であるサラ・アームブルスターは、まずは「俊敏性」が何よりも重要だと強調する。そして、「世界的パンデミックは、大規模かつ複雑なシステムの問題を露呈させ、人、場所、建物、移動、そして、人同士の交流に莫大な影響を与えました。その一側面を見て決定を下すことは非常に危険です。」とも語る。
ユーザー主体の設計手法
多くの企業は、従業員の健康と安全を第一にした職場復帰を目指し、そのスピード感やタイミングを模索している。同社は、この危機への対応策として、イノベーションに向けての戦略と同様のユーザー主体の設計アプローチを提案、展開する。アームブルスターはこうも語る。「働くことは社会的活動であることを考えると、従業員を安全に職場復帰させることが何よりも重要だと私たちは考えます。オフィスとは、円滑なコラボレーションによって斬新なアイデアが生まれ、イノベーションにつながっていくステージとしての役割を持っています。当社では、あらゆる視点で調査を重ね、ステークホルダーの皆様のニーズをも慎重に検討しながら、企業の皆様のオフィス再稼働に向けての準備をサポートしています。」
アームブルスター率いるチームは、何週間にもわたって毎日、会議を重ね、スピードを短縮しながら問題に対処している。「組織横断チームとして連携が必要な決定に直面し、それを数週間や数日ではなく、さらにスピーディにしかもグローバルレベルで調整していくかが大きな課題でした。それをやり遂げるには今までのような仕事の仕方では無理だったのです。」
同社のCOVID-19対策チームは、健康管理士、米国疾病対策センター(CDC)や世界保健機関(WHO)等の専門機関からの最新情報の収集にも力を入れ、未知なるウイルスの伝播方法やオフィスをいかに安全にするかの理解を深めるよう日々努めている。アームブルスターはこうも語る。「私たちの目標は、可能な限り科学的根拠に基づく対応策を講じることでした。その莫大な情報集積によって、法律や方針が異なる世界中の各地域に合わせて調整ができるようなグローバルな感染症対策戦略が策定できました。」
従業員はどう感じているか
同社では、従業員の職場復帰に向け、従業員がどう感じているかを把握するために従業員意識調査と円卓会議の両方を実施した。同社のリーダーシップ&人材トランスフォーメーション担当部長のジル・ダークはこう語る。「今回の世界規模の危機を経験したことがない従業員がどう感じているかをまずは把握しようと思いました。職場復帰にあたっての不安や心配の要因を経営サイドがまずは理解することが重要でした。意思決定は従業員にも影響を及ぼすため、彼らにも意見を言える機会を設けたいというのが自然の流れでした。」
ダークはこうも言う。「危機的状況の中で、人は脅威を最小限に抑える決定を下すために結束し合う傾向にあります。この場合、論理よりも先行するのが人間の感情です。私たちは、自分たちの意思決定を後押しするデータを探していました。調査での質問は、従業員の職場復帰に対する心の準備やそのタイミングなどにも及びました。」任意調査にしては高い回答率(67%)でその強い関心度が分かる。また、その意見も二極化していた。
職場復帰への心の準備
その結果は、1)緩和後すぐに職場復帰したい、2)職場復帰の時期は分からない、3)感染リスクから職場復帰に戸惑っている、というように大きく3つのグループに分かれた。職場復帰を強く望んでいるグループは、オフィスにある 人間工学に基づいた高機能チェアや上下昇降デスク、コラボレーションテクノロジー、 ホワイトボード やプリンターといった什器や機器、そして、何よりも仲間との交流を強く渇望していた。
従業員が戻るオフィスは、以前とは全く異なる「場」であることは間違いない。変わらないものがあるとすると、それは従業員が会社の方向性を理解し、その目的を共有することと、テレワークでは欠如しがちな帰属意識の維持だろう。「オフィスは、見えるカタチでこの2つを満たす場所ですから、従業員が安心して職場復帰できるように努めることが何よりも重要なのです。」とダークは強調する。
当社では、職場復帰対策チームを組成し、まず掲げたのが安全第一という姿勢である。そして、条件と科学的根拠が揃った時点で徐々にそれを緩和していくという対策を講じている。
当社では、職場復帰対策チームを組成し、まず掲げたのが安全第一という姿勢である。そして、条件と科学的根拠が揃った時点で徐々にそれを緩和していくという対策を講じている。彼女はこうも言う。「あらゆる企業が、なんとかオフィスが感染源にならないよう安全なオフィス再稼働に向けてあらゆる努力をしています。そして、その姿勢を従業員に見せることが職場での安心につながるのです。」
また、当社では、安全対策の一貫として、オフィスでのマスク着用を義務化した。マスク着用に躊躇するのは最初の4日間ぐらいで、それはすぐにオフィスエチケットして浸透していった。
5月下旬、ミシガン州グランドラピッズのオフィスワーカーの約15%にあたる従業員が職場復帰を果たした。製品開発、IT、製造、施設の各部門で、世界各地の支社も同様に規制が解除された。
新・プロトコル + 行動変容
可能な限り安全な職場環境をつくるには、従業員の新たな行動変容を促すプロトコルを策定し、それを新たなスタンダードとして定着させていくことである。
- オフィスの個人用執務スペースや共有スペースにおいて、人との距離を2メートル確保できない場合には、従業員及び来客に対してマスク着用を義務づけること、また、スペースの仕切りレベルや換気度合いによってもマスク着用はオフィスエチケットの必須項目とすることだ。当社では全従業員にメッセージ付きのマスクを自宅に送付し、その着用への理解を仰いだ。
- また、全従業員に対して、出社前までにオンライン上で健康チェックアンケートに記入し、出社時に検温し、体調を把握するよう課した。
- さらに、フード関連に関しては、ネットで注文し、オフィス内で受け取れるようなアプリも開発中である。
- 当社では、グローバルレベルでこれらの新たなプロトコルを徹底させ、従業員の意識改革と行動変容を促すよう積極的に努めている。
スマート + コネクト:データを活用した清掃・消毒
清掃・消毒作業は、ウイルス蔓延を緩和するための重要項目であり、同社施設チームもこの問題に対しては積極的戦略を展開している。頻度を高くし徹底した清掃・消毒が必要になるスペースの把握も必要になる。それには、センサー感知型スペース分析システムであるSteelcase Workplace Advisor(スチールケース・ワークプレイス・アドバイザー)を活用し、オフィス内で利用頻度の高いスペースを特定している。
「この分析データによって高い頻度で利用されているスペースが特定されるため、どこのスペースの清掃・消毒頻度を増やせばいいのかが分かるのです。」と語るのは同社のグローバルファシリティおよび不動産担当部長であるダン・ホワイトだ。さらに、スペース利用者が個々に清掃・消毒ができるよう、オフィス全体に衛生用品をのせたキャスター付きカートを配置した。利用率が多いスペースは、終日消毒作業を基本として、清掃スタッフも追加している。「私たちは、従業員に目に見えるカタチで衛生管理を徹底させることで、従業員の不安を払拭し、安心して職場復帰ができるような体制を整えました。」とホワイトは言う。
スペースの変更:密集度 + 規則性 + 分割
オフィスの全スペースで、人との物理的距離を保持できるようにレイアウト変更が実施された。2メートルの距離を確保するように家具を撤去したり、家具同士を離したりして、密集度緩和に向けての対策が講じられた。「Steelcase Flex Collection(スチールケース・フレックス・コレクション)のようなどこにでも移動可能なキャスター付き可動式家具を使用することで、状況に応じてユーザー自らが家具を移動させて距離をおいたり、家具の向きを変えて対面を回避することができます。」
「Steelcase Flex Collection(スチールケース・フレックス・コレクション)のようなどこにでも移動可能なキャスター付き可動式家具を使用することで、状況に応じてユーザー自らが家具を移動させて距離をおいたり、家具の向きを変えて対面を回避することができます。」
「一部の席には、利用対象外のサインを、会議室やプロジェクトルームには、距離を確保するような視覚的サインを置いて利用人数を50%削除しました。」とホワイト氏は言う。
また、2メートル以上の距離を確保できる屋外での座席数も増やした。ここではマスクをする必要がないため、利用率が上がるだろうと予想している。屋内外で利用できるモバイル電源や様々な携帯ツールを利用することで、従業員がオフィスのどこででも働くことができる環境が創出できる。
さらに、壁や床の視覚的サインを設置することで、密集しがちな通路での人との距離の確保や対面通行を回避するような注意喚起も行っている。さらに、手指が触れる蛇口や石鹸ディスペンサーなどのタッチレス化や換気改善のためにより高機能な空調換気システムの導入も検討している。
社内コミュニケーション + 透明性
従業員に対して、最新の更新情報を継続的かつ頻繁に発信することは、職場復帰の際の肝になる。それによってどういった職場に戻り、どういうことが期待されているのかを従業員は的確に把握でき、不安を軽減することができる。当社のコーポレイトコミュニケーションマネジャーであるケイティ・ウッドラフはこうも言う。「徹底した社内コミュニケーションが重要です。会社としての方向性とその理由、その対策を明確に社内に周知させる必要があります。」
職場復帰の際には、全従業員に従業員ハンドブックを配布し、オリエンテーションを実施した。社内コミュニケーションは、テレワーク開始数か月前から開始され、日々の更新情報と危機への対応策が日課の動画メッセージやブログで配信された。例えば、CEOであるジム・キーン自らが動画で全従業員に向けて、今後の事業計画や緊急対応策などの最新情報を発信している。さらに、イントラネット上に従業員向けウェルビーイングチャネルを設定し、社会的混乱の際に個人やチームを導くヒントなども提供している。
「世界は未だ収束の兆しが見えない未知のウイルスとの闘いの真只中にいますが、日々、私たちは学び、前進しているのも確かです。こうした不確実な時代にあって、企業が存続していくためには、組織や従業員にとっての最良の選択とは何かを私たちは日々学んでいます。 」とアームブルスターは加えた。
冊子申し込みフォーム
「来る時代へ舵を切る:ポスト・コロナ時代のオフィス(日本語版)」冊子では、オフィス再稼働に向け、安心・安全なオフィス環境づくりの様々な戦略的ヒントを紹介しています。
ご希望の方は下記フォームに必要項目をご入力の上、送信ください。追って担当者より冊子をメールにて送付させていただきます。
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