ウェルビーング

「場」のパワー: オフィスルネッサンス の始まり

所要時間 9分

Gale Mourrey、ヴァイスプレジデント、グローバルコミュニケーションズ、Steelcase社

ヤフーのCEOであるMarrisa Mayer氏は2013年にモバイルで働くようになった社員に対して、「オフィスに戻るように」と呼びかけて大きな論議を引き起こしました。彼女のこの命令の背後にある真の意図とは。。。社員を信用していないのか? それともオフィスという「場」で恊働することでさらなるイノベーションを起こすという強い思いがあったのか?というような多くの憶測を呼びました。

私たちは世界中の多くのリーディングカンパニーと研究を重ねてきた経験から言うと、多数のリーダーたちはこのMayer氏の意見に同調するはずです。彼らは一応に「社員の労働意欲」が企業の収益性や成長と大きく関係していると認識し、最近のその動向に大きな懸念を抱いているからです。

Gallupによる最近の調査では世界中の被雇用者の87%は「仕事に意欲がない」または「全く意欲がない」という結果がでています。つまりは職場に対して気持ちがなく、仕事が生産的に行われていないことを示しています。彼らは明らかに有害な存在として、国や企業のコスト高の要因になり、大きな損失を招いているのです。Gallupによると、米国だけでも労働意欲の低下は年間4,500—5,500億ドル、ドイツでは年間1,000億ユーロともいわれる損失を引き起こしていると推定されています。

反対に、労働意欲が高い社員は会社のための価値創造に努めていることもGallupの調査では明らかになっています。彼らの会社への貢献はイコール、企業の利益につながります。例えば、高い生産性や収益性、低い離職率、欠勤率や事故率をもたらしています。Mayor氏をはじめ、多くのリーダーたちが社員たちをオフィスに戻すことにやっきになっている理由はまさにここにあります。そして、社員の労働意欲への問題を解決する様々な方法がある中でも、「場」の問題が極めて重要であることを直感的に理解しています。そのためには社員をオフィスに戻し、恊働させることが最初のステップであると考えているのです。

しかし、現実的にこれは過去のオフィスでは実現できません。今日必要なのは新たな指標である「オフィスルネサンス」の実現です。つまり、ワークプレイスを再生させ、社員が働きたいと思える「場」を創造することに他ならないのです。

Nikil Saval、ニキル サヴァルのオフィス史を描いた著書「Cubed: キューブド」の中では、未来の仕事の姿は「場」にないと推測し、それがメディアの話題になっています。

しかし、2014年に世界14カ国で実施したSteelcaseの調査はこれとまったく異なる結果を示唆していました。仕事環境に満足している社員は基本的に仕事に意欲があるということです。彼らは過去のパラダイムに捕らわれず、身体的、認知的、情緒的なウェルビーングを育成するような仕事環境を望んでいるのです。

 

1

身体的ウェルビーング

過去のオフィスで必要とされたもの、それは主には社員に人間工学的サポートを提供することでした。昔、ワーカーはデスクに縛られ、長時間集中してコンピュータ操作をすることが一般的で、その座業を適切に支えることが必要とされていたからです。現在はどうでしょう。ワーカーはテクノロジーのおかげで動きながらどこででも仕事ができるようになり、むしろデスクに縛られずに1日を通して動くことが推奨され、座った際にも様々な異なるサポートが要求される時代になりました。

固定した状態で座りつづけることは代謝を下げ、首や腰の痛み、集中度の減少などを引き起こし、精神的、認知的能力に多大な影響を及ぼします。身体を持続的に動かすことは仕事場での身体的、精神的な活力を生み出す不可欠な要素になっています。それは身体でアイディアを表現する非言語コミュニケーションであるときもあります。姿勢を変えることで精神が刺激されます。調査によると、労働意欲が高いワーカーの96%は身体を頻繁に動かしながら、1日中姿勢を変えながら仕事をこなしています。

今日のワーカーは長時間の労働を強いられています。このような状況の中では姿勢を変えられる多様なタイプのスペースを屋内外に提供したり、創造力を引き出すために歩いてみるというようなことを推奨することが重要になります。就業者の高齢化が進むにつれ、照明、音響、調節可能什器などの要素を考慮にいれることも要求されます。

 

2

情緒的ウェルビーング

神経科学者たちはソーシャルな相互交流は質量ともにウェルビーングに大きな影響を与えると説いています。人間同士の質の高い交流がないと、労働意欲は低下し、恊働したり、イノベーションを起こしたり、問題を解決したり、変化を生み出したりすることが困難になります。

人々が分散し、遠隔で仕事をするようになると、そのスペースが同僚同士の活発な交流を適切にサポートされないとなんとかお互いに繋がろうとやっきになります。恊働するチームはメンバー同士がはっきり視覚にはいり、快適に対面しながら情報を共有できる「場」を必要としています。そのような適切な「場」によって、組織の中の見えない社会的資本や共通の意識を築き上げ、イノベーションを起こし、企業を成功へと導きます。

仕事場での良好な人間関係は会社やブランドへの深い忠誠心を生みます。労働意欲が高い社員の98%はワークプレイスが組織や企業文化への帰属意識を高め、自分のアイディアや意見を自由に表現できる「場」であると感じています。その中で質の高い人間関係を構築し、組織の中で一人一人が尊重されていると感じることが非常に重要になってきます。誰もが平等に表現でき、社員が会社に貢献できるような「場」を創造することは信頼関係を強固にし、コラボレーションを増幅させます。

ワークプレイスは社員の不安、心配、怒り、悩みなどのストレス源を減らし、誰もが平等に自由に創造的思考が出来るようにサポートできるはずです。人はストレスを感じた時に創造力と発想力が低下します。アイディアを生み出すことはイノベーションへの生命線です。繰り返しますが、研究調査は働く人々の多くは社員が充電でき、適切にサポートされているワークプレイスの中で仕事に意欲的になれるということを示唆しています。

 

3

認知的ウェルビーング

今日、仕事を遂行するには情報を処理したり、問題を解決したり、新たなアイディアを創造したり、刷新したりと様々なことが要求されるため、人々は身体的にも精神的にも消耗しきっています。つまり、これらのほとんどの作業を行う脳の領域である前頭前皮質に過度の負担がかかっているのです。

テクノロジーの進化によって、リアルタイムでの情報発信や共有がかつてないほど活発に行われるようになりました。量の多さはもちろん、スピードも求められています。人間の思考は平均3分ごとに中断されると言います。例え、数秒での中断でもそれによるミスは倍増します。集中した状態が中断され、その後、作業に戻り、前のように深く没頭し、集中した状態になるには23分かかることが分かっています。そして、マルチに作業を遂行することは、特に問題を解決したりするには相応しくなく、それは一晩寝ないのと同じくらいの認知能力を失う状態だと言います。

Steelcaseの研究調査では労働意欲がある98%が仕事場で集中できる、95%は中断なく、チームで仕事ができると回答しています。つまり、今日のワークプレイスとは人々が日々の生活の認知的過負荷を管理でき、完全に集中し、「今」に全力を傾けることができるように、集中し、充電できる「場」であること、そして、ストレスから解放され、より良い思考ができるように環境を自分でコントロールできる「場」であることが求められています。

相互に作用しあうシステムとしての「場」づくり

社員の心身の健康あって企業の繁栄があります。リーディングカンパニーは物理的環境であるワークプレイスの存在は企業の事業戦略の実行、ブランドの構築、企業文化の育成には欠かせないと考えています。しかし、その多くが回復力ある組織づくりと実行可能なコスト的側面の両方を可能にする方法で悩んでいます。

その鍵となるのが適切なワークプレイスのデザインです。人々の身体的、認知的、情緒的ニーズをサポートし、どこでどうやって働くかのチョイスを与える様々な「場」が相互に連結し、依存しあう「システムとしてのワークプレイス」を築くことです。ワーカーにコントロールとチョイスを与えることは労働意欲を高める重要な要素であるだけでなく、彼らの地位の新たなシンボルにもなっています。

このシステムとしてのワークプレイスでは「場のパレット」と呼ばれる様々な「場」が配置され、人々の相互交流を活性化し、その「場」でしか使用できない最新のツールやテクノロジーが完備されています。そこでは集中や熟考のための個人スペースとグループワークスペースがバランスよく混在し、相互に関係するゾーンやセッティングが意図的に、系統的に配置され、イノベーションにつながる創造的プロセスに不可欠な多様なワークモードや思考回路をサポートしています。

それに加え、複数の携帯デバイスを使用しながら多様な働き方をする社員をサポートし、座る、立つ、動くことを奨励する「姿勢のパレット」、そして、リアルとネットの世界で人々が快適に交流できる「存在のパレット」も適切に考慮されています。これらの「場」では「存在の格差」を最小限に抑えることが要求されます。存在の格差とは遠隔メンバーとコミュニケーションをする際に、その場にいない人間は視覚的、音響的に劣っている環境を強いられる状態を指しています。仕事がますます分散するにつれ、人々が心理的にも快適に集中できる「リアルタイムの動画」が実現できるスペースが重要になってきます。

私たちは世界中の企業と仕事をする中で、彼らがいかにコラボレーションを活性化し、有能な人材を確保し、ブランドと企業文化を構築し、社員のウェルビーングを向上させる「場」を必要としているかに気づかされます。私たちはそれらの問題に対応できる「場」とは身体的、認知的、情緒的なウェルビーングをサポートするシステムとしてのスペースであると考えています。その「場」づくりとは企業がどんな変化を強いられる時にあっても、その占有面積を増やさずに、より高い柔軟性と適応力を持って変化を乗り切れる回復力のある不動産戦略を構築することです。

14-0001754

CEOたちは解決しなければならない多くの案件の中でも社員の労働意欲を今日直面している最重要課題の一つとして掲げています。労働意欲がない社員に対するコストは驚異的で、その損失は危機的です。しかし、これらの直面している問題を好機と考えればその効果は絶大ともいえます。「場」だけでは労働意欲の問題は解決しないと考えて、その可能性を無視する企業も決して少なくはありません。

「場のパワー」は社員を仕事に向かわせ、個人、チーム、そして企業のパフォーマンスを向上させるものであり、最終的には人間の可能性を引き出す力を持つと私たちは考えます。

さらに深く探る:

この記事中に登場する思想リーダーたちのさらなる洞察に興味がある方は下記をご参照ください。

ウェルビーングの6つの側面
動画:Steelcaseブランドビデオ

 

Gale Mourrey氏は業界をリードするSteelcaseのグローバルコミュニケーションズのヴァイスプレジデント。1984年にSteelcas カナダに入社以来、営業、マーケティングコミュニケーションの管理職を経て現職に至る。現在、海外に分散し、多様な人種からなるチームを率いて、グローバルに展開する多種にわたる企業と仕事をこなす。今日のグローバルに拡がる複雑なビジネス環境での「場」の重要性を強く説く一人。「場」は社員に労働意欲を持たせるだけでなく、ウェルビーングを改善し、企業目標を達成するための一翼を担う重要な役割を果たすと主張している。

関連記事

早送りで見る未来

早送りで見る未来

後10年もすれば、かつてキッチンの壁に掛かっていたダイヤル式電話ように、今のあなたのオフィスも古臭く見えるだろう。今日の私達を取り巻く環境における変化の合図を注意深く分析し、Steelcaseの研究員はこれからたった10年後に起こり得るであろう仕事の仕方や場所についての7つの興味深いシナリオを考案した。ワクワクしようが身の引き締まる思いに駆られようが、これらは確実に、今日私達が経験しているものとは大きくかけ離れた未来についての見解をかき立てるものである。

職場でのプライバシーを確保するための5つの方策

職場でのプライバシーを確保するための5つの方策

職場にもっとプライバシーをと考えているなら、プライバシーを確保するための下記の5つの方策がヒントになるはずだ。

五感を活用する

五感を活用する

視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚といった五感を刺激する職場
環境は従業員ウェルビーングを高める。