ドバイの設計デザイン:バイオフィリアに注目
バイオフィリア(生命や自然への愛)という手法を職場環境に取り入れることに関して設計、インテリア、建築のエキスパートが集い、討論した。
ドバイは人口約290万人を抱えるアラブ首長国連邦(以下UAE)の都市で、パリやシカゴを抜いて世界でも最も人口の多い都市の一つである。現在、世界人口の半分以上は都市部に居住している。この数字は2050年までに3分の2にまで増加す ると国連 は予測している。 しかし、屋外に出ることが人間のウェルビーイング改善に大きく寄与するにも関わらず、都会人は多くの時間を 屋内で過ごしているのが現状だ。ドバイ在住デザイナー向けに特設されたテントイベント「ダウンタウン・デザイン(Downtown Design)」期間中に、Steelcaseは設計やインテリアデザイナー、建築家をSteelcase WorkLife Centerに集めて バイオフィリックデザインに関するパネルディスカッションを実施した。 人間は生物や自然との結びつきを求める本能を備えているという「バイオフィリア」をどう職場環境へ取り入れるかというのがテーマだ。
「バイオフィリア」は本当に人間の気分向上に役立つのだろうか?
「目を閉じて自分がハッピーだと思う場所を思い描くように言うと95%の人が思い浮かべるのが屋外です。」と語るのはInterfaceの中東地域担当事業長のMatt Hall氏だ。 職場環境設計は、人間の脳が自然環境とつながり気分を高めるようプログラム化された基本パターンを誘発するツールにもなりうるのだ。
環境心理学者のStephen Kaplan氏によると、人間は無意識に自然に魅了され、そのことが注意力の向上や集中力の回復に大いに役立つという。また、自然の中で過ごした後はより集中できるとも同氏は主張している。さらにヒューマンスペースレポートでも、木々や水、田舎などの自然要素を多く見ている人は、コンクリートのビルや道路、建設現場などを見ながら生活している都会人に比べて、ウェルビーイングレベルが圧倒的に高いことが報告されている。(「再生オフィス」を読む)
都会の中でなぜバイオフィリアが重要なのか?
Steelcase Global Report: Engagement and the Global WorkplaceSteelcaseグローバルレポート「世界のエンゲージメントと職場環境実態」によると、UAEの平均従業員エンゲージメントレベルは全世界のそれよりも高い(全世界13%に対しUAEは20%)。しかし、それでも世界の労働力の多くを占めるUAEの4分の3の労働力のエンゲージメントは低いかどちらでもない中間に位置し大いに改善の余地がある。バイオフィリックデザインは、人が落ち着いて物事を探求し、環境に順応し、創造的になる「場」づくりに大きく貢献するものだ。そして、それが信頼ベースの強固な人間関係の構築やコラボレーションにつながるだけでなく、ストレス漬けの現代人にとって職場を元気が回復できる「場」にもしてくれる。
設計デザイナーが中東地域でこうした環境を創る際に直面する頭の痛い問題についてHall氏はこう述べている。「窓の多い自然採光を考慮した設計はありますが問題はそこから見える景色です。そこにあるのは自然ではなく周辺のビル群ですから屋内に自然の要素を取り入れることが極めて重要になってくるのです。」
観葉植物はその解決策となりうるのか?
観葉植物はバイオフィリックデザインをする際に最も安易な解決策としてよく挙げられる。しかし、パネルディスカッションでもある参加者が指摘したように、植物の手入れやメンテには追加コストがかかる上、フェイクのものも多く設計デザイナーのデザイン美学に反するものだ。
自然の要素を職場環境に取り入れる方法として、Bluehaus GroupのAdil Amin氏はこう語流。「ドバイでは砂丘を象徴するものや中東文化を連想させるものがあればバイオフィリアとみなされます。屋外のものを屋内に取り入れ人間と自然とのつながりを生み出す、それがバイオフィリアです。」
360 マガジン では最近、人間の自然体験を4つの側面から追求しバイオフィリアをより深い視点から考察した。その中でバイオフィリアで考慮すべき要素として色、質感、光、模様、誘導目印、地域シンボルを挙げている。
Steelcaseブランドのひとつである CoalesseのグローバルデザインディレクターのJohn Hamilton氏は例を挙げて参加者にこう説明した。「自然の中で人を誘導する際に川を渡らなければいけない難関に遭遇することを思い浮かべてください。それと同様にデザイナーがスペースを設計する際に同様の難関を組み込み人を誘導できたら人々の脳は試練に向けて活性化し少なくともそれに向かって行動する状況をつくります。それはバイオフィリアの原理を意識させないようにスペースに組み入れるシンプルな手法の一つです。」
バイオフィリックデザインとは、全ての人にとって同じなのか?
Hamilton氏は、バイオフィリックデザインを検討する際のレイヤー方法についてさらに説明した。「バイオフィリアという言葉の解釈から離れて巧妙にそれを取り入れることも可能です。例えば、絨毯の柔らかさであったり、ある特定の色や模様が目に留まったり、シーリングファンの音から木の葉を揺らす風を連想したりという具合です。砂漠や森林、海などの自然要素をほのかに感じさせる工夫をすることでも自然とのつながりを助長できるのです。」
バイオフィリアとは個性や質感、色の違いだと補足したのはHall氏だ。「私たちは自然の色は緑だという先入観を持っています。しかし、ドバイではバイオフィリアとは色彩豊かな砂漠の色や砂丘の層や動きから発想されることもあるのです。」
結果として、人間に活力を与える職場環境はそこで働く「人」の可能性を引き出すのである。
Hamilton氏は最後にこう加えた。「私たちの仕事は、人々がここで働きたいと感じるスペースを創り出すことです。正しいやり方でスペースを設計すれば、人々はそこに居たいと感じ、より頻繁に同僚と話し、そして、より意欲的に仕事に取り組むようになるのです。」