ウェルビーング文化を構築する
2014 年2 月末に定年で退任するSteel case のCEO であるJim Hackett 氏に、 今日のビジネスリーダーにとってのウェル ビーングについてインタビューしました。
私が幸運だったのは仕事キャリアの早い時期に身体の健康と自分の仕事をこなす能力の関係についてかなり自覚していたことです。医者である兄からのアドバイスもあり、私は仕事と同じように自分の健康を意識的に管理しなければならないと思っていたのです。また、健康とはただ単に身体だけのことではないことも分かっていました。人間の身体は各機能が影響し合いながら巡回するという複雑なシステムを備えているからです。
その時期を思い起こすと、ウェルビーングとは人間の身体、精神、認知の側面がすべて調和してバランスよく機能することだと理解して、いくつかの目標を設定してそのバランスを達成することを意識してきました。
私がSteelcase のCEO に就任した時、そのことが真実で あることをうすうす気がつき始めていました。例えば、個 人のウェルビーングと企業のウェルビーングは切り離しては 考えられないということ。ウェルビーングという観点から、 従業員が豊かになればなるほど、企業は組織としてよりス リムになり、俊敏で、イノベーションや成長に向けての土 壌がつくられ、繁栄するという構造です。
個人的なウェルビーングとは仕事をしている最中の身体、心、魂を含む「すべて」が自分という考え方です。私はワークプレイスとは人々を豊かにするパワフルな要因になることができ、それによって企業はどんな困難にも耐えうる回復力や俊敏性というものを築くことが可能だと考えていました。
それ以降、仕事はかつてないほど複雑に、激しくなりました。会社を率いるリーダーとしてウェルビーングとは正反対にあるストレスからくるさまざまな問題を自身の中で、そして組織の中で積極的に対応しなければなりませんでした。人々はストレス過多、過労、心労では前向きに物事に立ち向かうことはできません。その反対に、会社に支えられていると感じている従業員は自分が達成しなければならないことに対して自由に能力を発揮でき、仕事からの充実感も感じることができます。
過去数十年に及ぶ私たちの研究調査では、もしワークプレイスが仕事をこなすのに必要なネット接続やツールなどを適切に提供するとしたら、環境が生み出す摩擦を軽減でき、人間の可能性を最大限に引き出すことができることが明らかになっています。また、物理的な束縛やネット障害など人々の仕事を遅らせる要因からくるイライラなども軽減することができるのです。私たちはこの調査を継続し、学ぶ中で、これらの要素はすべて同一要素として解決できるものであることが分かっています。そして、このことがワーカーとワークプレイスのウェルビーングについての新たなプロジェクトを始動するきっかけにもなりました。私たちは問題を整理し、ワークプレイスが日常のウェルビーングを生み出す源になるにはどうしたらよいかを模索しました。探れば探るほど、ワークプレイスのパワーとは、先にも述べたように、調和をつくりだす環境を提供することなのだと気づいたのです。
私は自分のキャリアにおいてメンターともいえる人々が過去 にいたことは幸運でした。その一人は何十年もの間私たち のCEO を務めたBob Pew 氏で、人間には仕事において も仕事から離れても質の向上や豊かさが必要であること、 そしてもし、あなたがオフィスに投資するとしたら、まずは そこで働く人々にとって、身体的にも精神的にも何が大切 かを理解しながら、スペースをデザインすることが重要だ ということを彼は教えてくれました。このことは常に私の頭 にあり、現在のSteelcase のあるべき姿へと導いたのです。
従業員との絆は彼らが会社に就職する際に築かれます。従業員のウェルビーングを念頭においてデザインされたワークプレイスはそこで働く人々のプライドを築き、企業の存在と目的を達成するためのインスピレーションの源にもなりえるのです。ワークプレイスとは人々が組織の一員であることに満足する「場」、家族や友人にも見せたい「場」、会社が何者であるかを視覚的に伝える「場」でもあるのです。
Steelcase のCEOとしての19 年間という長い月日の結果、 今思うこと、それは働くことは本質的に社会的な活動であ り、偉大な企業の目的とその健全な精神を理解すると、そ の中心にあるのは常に「人」であり、人は高みを目指して 歩んでいるということです。
仕事場でのウェルビーングを考慮しながら「場」を創造することは企業が成功する不可欠な要素です。それは実にシンプルでとてもパワフルだということを実感せざるをえません。
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