ウェルビーング

PCを超えて: 進化する アームレストサポート

所要時間 8分

働き方が根本から変化する際に重要になってくるのが、人間工学的サポートが適切かどうかを再検証することです。タブレットやスマホなどタッチ操作テクノロジーに代表されるような新たなトレンドが仕事場に登場するとそこで働く人々の健康やウェルビーングに関して新たな課題が持ち上がってきます。

1980年代、オフィスにPCが導入される前のチェアといえば、エグゼクティブチェアのアームレスト(チェアの肘掛け)にも調節がついていないという極めてシンプルなものでした。

その後、オフィスでのコンピュータ作業が増え、長時間座る作業をサポートするチェアの需要が増しました。これが変化したのが1990年代です。長時間同じ姿勢で座ることやPCでの反復作業からくる負の効果が人間工学的研究につながり、アームレストの重要性が注目され、チェアの設計を変えざるをえない状況になりました。特に1990年代、チェアは座るだけのモノから、身体のサイズや働き方にあわせて調節できるエルゴノミクスツールとしての役割を果たすようになりました。

調節可能アームレストへの変革

固定肘から進化した最初の機能は高さ調節でした。座っている時の肘の高さに合わせるというもので、肘の高さ調節は7-11インチ(約18cm-30cm)の範囲が設定され、現在までその基準が使用されています。

ほぼ20年もの間、高度なエルゴノミクスチェアは幅、首振り調節機能を搭載し、幅調節はなるべく肘を身体に近づけ、首振りは上腕の動きの幅をサポートするように設計されていました。アームレストはユーザーの体格に関わらず、肩からの上腕と肘から手首までの自然な動きをサポートでき、高さ調節機能とのコンビネーションでシートの内側までアームが動くようにすることが不可欠でした。

適切に設計されていれば、アームレストは首、肩、肘、腕、背中、臀部への負荷を緩和することができます。研究によると、アームレストとは体重の約10%まで背骨にかかる負担を軽減し、座るボジションから立つまでアームレストを使用することで腰までにかかる負荷を50%まで軽減することができるということです。

チェアによっては搭載している奥行き調節は10年ぐら い前にテスト用として開発されました。その当時はち ょうどデスクトップにフラット型のディスプレイが登場 し始めた頃でした。コンピュータユーザーは本能的に ディスプレイをデスクの奥の方に配置し、そのことで デスク面を広くとることができながらも、アームレス トのフロントエッジがデスク(またはキーポードサポー ト)にぶつかるという状況を招いていました。このこ とによってディスプレイまでの適切な距離をとること ができず、結果としてぎこちない姿勢を招き、前屈み になったり、腰掛けるような姿勢になったりして最終 的には首や肩に痛みをもたらすことになったのです。 アームレストを後ろまでスライドできる機能によって ユーザーはより身体に腕を近づけ、健康的な姿勢で 仕事を続行することができるようになったのです。

次世代のアームレストデザイン

最近、Steelcaseの人間工学研究員が6大陸、11カ 国、2,000人を対象にグローバルな座位姿勢の分析調 査を実施しました。そこで研究員たちは新しい小型の タッチ操作デバイスが人々の座位姿勢や働き方を変 化させているという事実を発見したのです。

この研究調査の最終的目標は働く際の座位姿勢がど う変化しているかを理解することでした。そして、姿 勢の動画を分析し、アームサポートをシステムの一部 として見た時に、アームレストを重要な差別化要素と して位置づけ、設計しようという決定を下すことにし たのです。何故ならこの徹底した研究調査で今日のワ ーカーが多くの多様な姿勢をとっているにも関わらず 従来のチェアがまったくその状況に対応していないこ とが証明されたからです。

10年以上もの間、人間工学者たちは視野と手が届く 範囲が姿勢に大きく影響すると認識していました。こ れが例え、小型のタッチ操作デバイスになったとして も例外ではありません。80年代、90年代に言われた 累積外傷性障害(CTD)や反復ストレス障害(RSI)な どが過度のキーボードやマウス操作によって引き起 こされたように、今は肩や首への痛みが増えている現 状の中で、仕事や仕事以外でも手放せない携帯デバ イスがこれらの痛みと深く関係していることが分か っています。

アームレストの高さ調節に加え、幅の調節範囲を広げ ることで小型デバイスを目線に近くし、過度な首の屈 曲をなくし、必要なサポートを提供することが可能に なりました。十分な幅と首振り調節によって、腕はどん な姿勢をとってもより身体に近いところで保持され、 よくある職場での痛みや損傷の原因にもなる手根管 を通る血液の流れを制限する尺屈偏位(しゃくそくへ んい)をなくすことにもつながりました。

また、調節範囲を大きくすることに加え、より直感的 に調節できることが重要な課題になりました。今回 の姿勢の研究は前回の研究での発見、つまり、アー ムレストは人間工学的に正しく、適切な位置にあるこ ととユーザーが使いたいと思えるシンプルなもので なければならないということを再認識する結果にな りました。

Steelcaseのグローバルな座位姿勢調査研究の結果を 受けてアームレストの位置を根本から考え直すことに なりました。ワーカーのサイズが極端に多様化してい る中で、アームレストの位置をシートの横からさらに 後方に移すことによって、さらに健康的で自然な動き が可能になると結論づけました。

この変更によってチェアの大きさを変えずに十分な広 さのシートを確保し、体格の小さなユーザーにもフィ ットすることが可能になりました。さらに、アームレス トの高さと幅調節機能によって、アームは人間の腕の 自然な動きを真似ながら弧を描くようにスムーズに動 くようになったのです。また、チェアの後方にアームレ ストを移動させたことでシートの側面が空き、ユーザ ーは姿勢を自由に変え易くなりました。人間工学者や 医療関係者たちはこの座りながら身体を動かすこと がもたらす健康メリットを説いています。アームレスト がシートに後方にあることで、集中ワークからコラボ レーションへ、また、デスクトップから携帯デバイスへ とより容易に、自然にシフトが可能になりました。

アームとシートの密接な関係を知るほど、改めて今日 のチェアを一つのシステムとして考えざるをえません でした。チェアのすべてのパーツは人体のようにお互 いに関係しあっているのです。

新たなパラダイムとしてのハイパフォーマンスアーム

10年以上もの間、Steelcaseはアームレストを快適性 とウェルビーングを促す重要な機能のひとつとして位 置づけていました。この基本的考え方は間違っていな かったことを今が証明しています。1990年代以降、ワ ーク環境が大きく変化してきたことで、人間工学的視 点からも調節可能なアームレストを抜本から見直す機 会が増え、アームレストは人々が生産的に、安全に、 快適に仕事ができるようにサポートする重要な役割を 担うようになりました。

テクノロジーの発展とともにチェアのアームも進化し てきました。ユーザーにもたらす価値も劇的に変化 し、今日の働き方に対して根本的に今までとは異なる ソリューションを提供しなければならない時に来て いるのです。

参考文献

Johnson, Peter, An ergonomic assessment of the Steelcase Gesture chair, June 2013

Steelcase Global Posture Study summary findings, 2012

Vink, Peter, Stimulate movement while seated, May 2013

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