中国企業の経営スタイル
イノベーションに向けての改革
中国は今、伝統と新たな成長機会が交錯するビジネス環境にある。 今後5年から10年の間に、民間企業の創立に関わる300万人はいるといわれる CEOたちの世代交代の時期に入るといわれている。
中国経済の成長鈍化の中で、これらの経験豊富で、草 分け的な経営者たちは後継者へと事業承継しようとして いるが、それに向けての難題も多いのも事実だ。内需 主導への構造転換と国際間の産業競争の激化も増して いる。
これは2015年10月に発表された中国政府のイノベー ション主導型発展5カ年計画の核となる事項で、習近平 国家主席の公式訪米一ヶ月前に中国のCEOがシリコン バレーのIT企業とトップ会談を持ったことでも明らかに なった。
「グローバル化時代にあって、中国でも先進的な考えを 持つリーダーたちは、グローバル化に対応し、より俊敏 で革新的な組織づくりにむけて積極的に取り組んでいま す。」とSteelcaseのElise Valoeシニアデザイン研究員は 語る。彼女は中国6都市にある企業の経営者たちに直 接インタビューをし、今日の中国企業のCEOたちの経 営姿勢や働き方をつぶさに観察している。この調査結果 を受けて、Steelcaseは中国全土からデザイナーを招待 し、コンペを開催した。コンペの目的は中国企業の CEOたちの新たなニーズを理解してもらい、激変するビ ジネス環境にも柔軟でイノベーションを強化できる次世 代の「個室」コンセプトを具現化するというものだった。
伝統を継承し、ブランドを反映
イノベーションに向けての動きを加速させるには、単に 戦略を変えるだけではうまくいかない。より広範囲に及 ぶ情報へのアクセスやコラボレーションの強化、俊敏性 のある組織づくりが欠かせないのだ。中国のCEOたち は、競争力の源泉となるイノベーションの実現に向けて、 今までの調和重視のビジネス慣行、血縁、地縁関係な どの伝統的な人脈やコネ(guanxi)といった影響力を 変えていかなければならないと強く感じ始めている。
もちろん、信頼関係はビジネスでの成功には不可欠な 要素である。それは世界中どこであろうと変わることは ない。また、今日のグローバルなビジネス環境にあって は、海外の取引先との迅速かつ効率的なコミュニケー ションやコラボレーションを実現するために、CEO自身 のスキルの取得、新たなツールや最新テクノロジーの 活用も優先事項となる。実際、IBMの経営層への世界 的意識調査によると、リーダーとしての資質にグローバ ル思考を挙げている中国のCEOの数はヨーロッパや北 米と比べても倍近い。
しかし、他の国々同様、中国の多くのCEOのオフィスは 旧態依然として、とかく企業のステータスを誇示するよ うに設計され、今日のニーズや課題に対応していない。 一方、Steelcaseの調査では、次世代の経営層たちは この体制に強い疑問を感じており、新しい働き方やイノ ベーションを加速させるような職場環境を求めているの が明らかになっている。
Valoe研究員はこうも言っている。「企業が顧客を招きい れる際にそのスペースの広さがステータスであることは 調査結果でも明らかです。但し、そのスペースの多くは 役員たちがコラボレーションできる効果的かつ効率的な 空間としては不十分です。ましてや、分散している役員 同士や取引先とのコラボレーションとなると不可能に近 いのです。まさにこの部分を変革しないとイノベーション に向けての実現は難しいでしょう。」
仰々しいほどの家具や大きな会議テーブルなどは意思 決定者や指導者の力を誇示するだけのものである。ま た、情報の視覚化を実践しない限り、オフィスでの接客 はソファでの対話などに限られてくる。組織としての知を 迅速に共有、集積するためにはホワイトボードやテクノ ロジー完備の多彩なスペースが必要であることなど、経 営陣たちはようやく実感し始めているのである。
効率性とイノベーションを全社的に強化する組織行動のためには、次世代のリーダーたちが、現経営陣とより多くの時間を共に過ごすことである。そのためには旧態依然とした役員室を今日の多彩な活動をサポートする環境に転換することはもはや避けられない。
パフォーマンスを 向上させる 4 つの方法
Steelcaseの研究員は調査結果に基づき、デザインの可能性を下記のように特定している:
クライアントやビジネスパートナーとの対話や人脈形成のための新たな方法を創出する
伝統的な対面式ミーティングを重視したり、ビデオ会議を導入したりすることで、オフィスでの接客は効果、効率の両面でその質が高くなる。ビデオ会議は時間の無駄や場所のアレンジをすることなく、遠隔にいる相手とネット上で対面しながらミーティングができ、信頼関係や人脈を構築することができる。
透明化と学習のためのスペースをデザインする
インスピレーションを刺激し、学習意欲を向上させるためには、先端テクノロジーの導入は不可欠で、それは1対1の集中指導や、役員たちがその道のエキスパートや同輩から情報や考察をより入手し易くなる。また、より効率的な時間の使い方や出張費用の削減も実現できる。
社員とのコラボレーション、共創造、円滑なコミュニケーションを促す
象徴的な役員用デスクを、社員との間の距離を排除するような什器に置き換えることで、よりリラックスした洞察力に満ちた会話ができるようになる。また、テクノロジーをスペースに統合することで、役員スペースに新たなレベルのコラボレーションが創出。参加者にとって平等なツールを使用することで横断階層的なコミュニケーションが活発になり、情報やアイデアの迅速かつシームレスな共有が可能になる。
CEOのスタミナとウェルビーングをサポートする
絶え間ない業務でストレスが溜まり、仕事でのパフォーマンスが落ちていく状況で心身共の活性化は不可欠である。昼寝ができる伝統的な役員室をよりリラックスでき、エネルギーを充電できる活性化スペースへと変換させてみよう。
STEELCASE デザインコンペ中国の役員スペースを進化させる従来型思考からの脱出
Steelcaseは中国の次世代リーダーのための進化したスペースの創造に向けてのデザインコンペを開催した。
13件の応募案は100点満点で評価され、その評価基準になったのはユーザーのニーズを解決する根拠に基づく推論と創造性である。
決して簡単ではなかった評価プロセスを審査員たちはこ う振り返る。Lenovo Chinaのデザイン担当副社長兼チー フデザイナーであるYao Yingija氏は「それは新たなアイ デアというよりはむしろ新たなアプローチとソリューショ ンを提示していた。」と語る。IDEO Chinaのデザインディ レクターであるTony Wang氏は「参加者全員が共通して 考えていたのがクライアントのウェルビーングでした。身 体的ウェルビーングはもちろん、スペースがいかに人間 のメンタルな部分を左右するかも深く掘り下げていたの です。」
「どの案もユニークで挑戦的なものでした。そのアプロー チはおそらく中国だけでなく、世界中の役員スペースに 適応できるものでした。中国は特に、同族や昔ながら の中国企業の経営方針と、未来の成長を見据えた進歩 的な考え方の狭間にいるからです。どの案も調査データ や分析をベースに、いかに激化する市場の中で、忙し いCEOをサポートするかに焦点が当てられていました。 現実的なデザインやレイアウトに加え、会社やブランド の個性を十分に考慮したものでした。それがスペースを デザインする上では極めて重要な点なのです。」と Steelcaseアジアパシフィックのデザインディレクターで今 回の審査員でもあったMichael Held氏は語る。
今回優勝に輝いたのは北京のRobarts Spacesの作品 である。CEOたちの進化するニーズや創造性、イノベー ションといった要素への深い理解が見事にデザインに反 映されていたことが高評価の理由だ。多くの研究による と、人間は歩いたり、自然に触れたりした後によりクリ エイティブな発想が生まれることが明らかになっている。 彼らのデザインには一緒に並んで歩ける動くコンベア、 心安らぐ滝や大規模な緑化スペースなど自然を取りい れた様々なアイデアが戦略的に盛りこまれていた。また、 業務の効率を図るビデオ会議用家具なども主要な考慮 事項として挙げられていた。中央に配されたコラボレー ションエリアの壁にはビデオ会議用の大型高精細ディス プレイが装備され、その反対には芸術的アートが施され ている。高さ調節可能なテーブルとホワイトボードのセッ トは、座位、立位で行われる活発なミーティング風景が 容易に想像できる。 次点作品は上海のGenslerで、先進的でオープンな執 務環境を提示していた。壁で仕切るのではなく、コラボ レーション、集中、交流のための各エリアをカーブした ガラススクリーンと家具を上手く配置させることで見事 に一体化させている。中央に設置された「ポッド」と呼 ばれるスペースは、熟考・瞑想や仮眠、プライバシー のための一時的な避難所として設定されている。
第第3位に入賞した上海のAGIA Group Chinaは、中国の 伝統的要素を維持しつつ、統合テクノロジーや社内の透 明化、コラボレーションといった要素も同時に反映した デザインで、過去と未来の企業文化のギャップを埋めて いる。経営層との壁のない交流を奨励するソリューショ ンとして、入り口にはコラボレーションスペースを設置。
木材をパターン化したモダンなスクリーンを採用することで透明性と遮蔽性の両方を実現している。また、テクノロジー完備のコラボレーションラウンジスペースは、カジュアルなミーティングやブレストなどを可能にし、フォーマルな会議やビデオ会議、休憩やプライベートのための個室など広範囲にわたるスペースも網羅されている。