ラーニング

Learn Better

今こそ、「より豊かに学ぶ」環境づくり

所要時間 6分

教育現場では、学校教育のあり方や学び方の改革が以前から問われていたものの、コロナ危機によってその課題はより顕在化した。オンラインと対面併用のハイブリッド型あるいはブレンド型学習が注目を浴びる中、その指導法やテクノロジー活用に適した物理的環境の整備といった新たな課題も浮上している。不慣れな環境下での学生や生徒、教職員の心身共のストレスや苦労も浮き彫りになり、教育現場での急速な転換と質的な充実が今、求められている。

学生・生徒や教職員が必要とし、期待するコト

自宅学習やオンライン授業の捉え方は人によってさまざまである。この実体験こそが試行錯誤しながらも未来の学び方をカタチづくっていくことになる。

コロナ禍、Steelcase Learningの担当研究員たちは、複数の手法を用いてハイブリッド型やブレンド型学習、さらにはそこでの教員や学生・生徒のウェルビーイングが学習効果とどう関係し、物理的環境がその改善にどう貢献するのかを探っている。コロナ禍前は、幼稚園、小中学校、高校、大学の教職員や学生・生徒へのヒアリングに加え、ハイブリッド型あるいはブレンド型学習での実際の様子を観察し、空間のプロトタイプも作成している。コロナ禍においても引き続き、日々の教員と学生・生徒のオンライン授業を観察、評価してきた。一方、コロナ禍に実施した「働く」ことへの世界的な実態・意識調査で新たに見えてきたこと、それは人々の意識や価値観の大きな変化と新たな課題である。この調査と長年にわたる研究結果を包括的に評価すると、明らかに働き方や学び方が大きくシフトし、働く・学ぶための物理的環境には新たな設計アプローチへの変換が鍵になる。

安全・安心を感じる

コロナ禍を機に教育現場でのウイルス感染対策は必要不可欠になった。コロナ禍前には意識しえなかった空気質、施設の清掃・衛生、社会的距離、密集度、安全プロトコルの順守など新たな安全対策が教育現場にも求められている。

より強固な帰属意識

コロナ禍、オンライン授業の浸透によって学生・生徒や教職員が孤立感に悩んでいることが世界的にも問題視されている。オンライン授業だけでは、学生・生徒や教員は帰属意識やコミュニティ意識を感じる機会が減り、不安を感じることが多くなる。教育現場においても、このコミュニティ意識を養う人間中心の新たな学び方にシフトする必要があるだろう。コミュニティ意識の欠如は心身共のウェルビーイングの悪化を招き、学力の低下や欠席率の増加につながるリスクが高くなると同時に、教員の負担増でバーンアウト(燃え尽き症候群)による教員の質の低下や離職も懸念されている。

高い学習効果

対面授業と比較してオンライン授業には多くの課題が残る。マッキンゼーの報告書(米国調査)によると、多くの大学生は、感染拡大が学習意欲や学力の低下を招いていると報告している。例えば、中・高等学校の30%は大学への進学準備や進路対策ができていないと感じているという。オンライン授業で成功する学力レベルも世帯収入によっても大きく変わる。高所得世帯の学生・生徒の72% がオンライン授業に適した機器や環境があるのに対して、低所得世帯は40%に留まる。

包括的な快適さ

学生・生徒や教員の多くが強く望むもののひとつが自宅も含める包括的な学習環境の快適さである。学習には身体的サポートは不可欠で、自宅のソファやキッチンテーブル、ベッドといった学習には不向きな家具は情緒的/認知的側面からの快適性だけでなく、体調不良を招く可能性が高い。安全・安心に学べる快適な環境だけでなく、さまざまな姿勢をとれたり、身体を動かせる環境、さらには全ての学生・生徒に公平で、かつコミュニティ意識を促し、小休止できる落ち着いた環境を提供することが学習には極めて重要になる。

自らコントロール

Steelcaseの学習環境評価(LEE)の調査によると、学生・生徒、教員ともに学習環境を自らの手で調整、コントロールしたいと望む声が多い。どこでどう学ぶかの選択肢の提供と学習内容に応じてスペースを変更できることが望ましい。また、常にスペースの家具を授業内容によって動かせると答えた人の学生・生徒の割合は92%増加、家具を移動しながらスペースを再構成したいと望む教員の割合は47%増加したとも報告している。可動式家具やさまざまな姿勢をとれることが学生の学習意欲を高めることにもつながる。


ラーニングスペース設計
の際のマクロ的視点

学生・生徒や教員の声を真摯に捉え、顕在化した問題点を見直し、学生がより豊かに学ぶ環境をいかに創出するかが今後の課題になるはずだ。その際に是非考慮したいのが、「学ぶ」環境を設計する上での4つのマクロ的視点である。

「安全・安心」を考慮する

マスク着用や対人距離の確保を考慮した行動戦略に加え、物理的環境の見直しも考慮すべきである。教育現場でもウイルスの空中浮遊の動きを正しく理解するなど安全・安心へのより体系的な対策やウイルス拡散防止に向けたスペースの再構成は不可欠になる。これによって学生・生徒や教員は安全だと感じ、安心して学習に専念できるようになる。

「効果」を考慮する

コロナ禍、想像もできない変容に学生・生徒や教員も苦悩し、学ぶ意欲や学習効果の低下を感じている人も多い。その効果改善に向けては、例えば、図書館を自習だけでなく、グループ学習にも有効活用することやハイブリッド型あるいはブレンド型学習を可能するスペース構築を目指すなど、個人とグループ両方の学習スタイルをバランスよく配した学習スペースを設計することを検討しよう。

「一体感」を考慮する

コロナ禍を乗り越えた先に人が望むもの、それは人が触れ合うことでの知的刺激やそこから生まれる「一体感」である。学生・生徒が教職員とつながるコミュニティとしての学習スペースは、学習効果の向上につながる可能性もある。意図的に設計された学習環境は、学生・生徒、教員とが相互に深くつながり、意味ある価値や成果を生み、強い適応力で変化をむしろ奨励する雰囲気を創出することができる。

「柔軟性」を考慮する

元来、学校や大学のスペースはその進化や変更を前提に設計されていないため、その建物や空間の内装や電気設備、家具は固定されたままである。しかし、今後は教育現場でも予測不能な社会的変化に合わせて容易に適応できる「場」、多目的に利用できる「場」へと転換されなければならない。家具は可動式で簡単に移動でき、必要に応じてスペースを拡張縮小できる学習環境を提供することが望ましい。

どんな危機でもそれを乗り切るには大きな困難を伴う。しかし、その危機を教訓として学び、発見することも多い。コロナ危機によって、教育現場は学び方のあり方を見直し、その学習スペースを再構築する絶好の機会と捉え、より質の高い教育を提供する新たなプラットフォームを模索する時期がようやく来ているのかもしれない。

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