Karin Jironet博士へのQ & A
リーダーシップに問われる人間的資質 「愛とパワー」を持って組織を率いる
今日、リーダーシップで何が変わったと思いますか?
共通の目標に向かって、個々が自発的に集団的活動に参加し、目標を達成するよう導く役目がリーダーにあるのは昔と変わりません。変わった要素といえば、卓越したリーダーシップを発揮するには、統率の仕方や意思決定プロセス、社内のコミュニケーションのやり方などに今までとは異なるアプローチが必要になったということでしょうか。現代において
現代においては、リーダーの多くは情報過多に陥り、矛盾する情報に晒され、真に必要な情報は埋もれてしまいがちです。また、ビジネスを左右する先行き不透明な社会や経済の不確実性に心労が絶えません。こうした状況では、とかく人は直観ではなく、論理に走りがちで、このことが現状への対応力や突破力が引き出せない要因になっています。
その状態をどう回避すればいいのですか?
最新の科学では、宇宙はひとつの生命体であることを認める動きもあります。そこには原因と結果の法則が存在します。現代のリーダーたちは環境を大きく変えているものが何かをまず把握して、自らの方法論を導きだすことが極めて重要になります。管理するのではなく、人間の暗黙のプロセスを信頼し、精力的に集中、没頭できる状態を維持することです。
適応力は不可欠です。「私」対「あなた」、「私たち」対「彼ら」という図式はもはや過去の考え方です。すべてが元々は「ひとつである」という考え方から発すれば、企業組織、さらには社会全体への利益を追求していくことができます。この感覚は近しい人との人間関係にも似ています。つまり、私たちは自己や他者のためにあるのではなく、人との関わりの中で、さまざまな経験を通して成長していくのです。
このことは現実にはどう役立つのですか?
組織での職位ベースでの役割が終結すると、個性や自分らしさというものがますます重要視されるようになります。今日、自営業やパートタイム労働、短期の就業中断やプロジェクトベースの雇用など雇用の柔軟化が顕著になってきています。定年制はもはや過去のものとなり、一生涯働く時代が来るのかもしれません。自分のアイデンティティを形成するもの、それは人生での自己実現に他ならないのです。他者が見る自分のイメージと本当の自分が同一になって初めて、成功は自然にもたらされます。この場合、職業での肩書きは全く意味をなしません。
あなたにしかない特別な資質や才能、自分らしさや個性といったものの方がはるかに価値を持つのです。今後、労働市場では画一的な人材よりも、職人技や芸術性などといった創造力豊かな人材に需要が傾くでしょう。もう、没個性や自己認識の欠如した人材が入り込む余地はなくなると考えています。
今日のリーダーの役割は何だと思われますか?
その任務はいつの時代も同じです。つまり、共通の目標達成に向けて集団組織を率いることです。しかし、今日のように激しく変化する時代の一番大きな課題といえば、多分それは社員を信頼し、自らも関与しながら、責務を遂行していくことです。これには確固とした自信が要求されます。私利私欲ではなく、自身への信頼からくる自信です。
例えば、その例を挙げてもらえますか?
私は最近、有名な大学病院で彼らが直面している様々な変化、例えば、合併、移転、財政不安、トップの交代、悪評などについて助言をしました。この病院はこういった様々な問題を抱えながらも、世論調査では常に国内でもっとも優良な病院として格付けされています。それは何故だと思いますか?
ある管理職たちはこう語るのです。ここではすれ違ったら、必ず視線を合わせて心を込めて「こんにちは」と挨拶をする習慣があるのです。挨拶は文化です。あるスタッフは部署や分野を超えた組織横断的なコラボレーションの実現に取り組み、画期的な研究結果を導きだしています。また、ある人は課題の正負が逆転する状況に対応する能力を育てる「逆転学習」をベースに臨床用リーダーシップ向けの最先端のカリキュラムを開発しています。しかし、第一の理由は、この病院のCEOは問題への集中化や1対1または少人数での対話を通して、問題を表面化させ、徹底的に議論し、全てを明らかにしようとする姿勢だと私は考えます。彼は自分の仕事は信頼される判断力と「愛」を持って、安全で、親しみのある、誰もが尊重しあうスペースを創出することだと強調しています。
この場合、「愛」とはどういう意味を持ちますか?
リーダーシップという観点から言えば、「愛」とは職場において社員同士が信頼しあえることだと思います。それはリーダーである経営者と社員の双方にとって、最良の状態をつくりだします。経営者は社員を全面的に信頼し、仕事を任せ、社員はその信頼に応えるように全力を尽くし、その中では尊敬や自律心といった要素も育ちます。疑心暗鬼や監視されているという意識から離れ、責任と裁量権を与えられることで、その上下関係の信頼はますます強固になるはずです。このアプローチは社員への過度な管理体制や組織の階層構造よりもはるかに強い忠誠心をつくりあげ、企業にとっては有益な投資にもなることは間違いありません。
「愛」とは寛容さです。決して自己犠牲ではなく、より大きな善のために見返りを期待せずに何かを与え、他者を支えるなど、その精神的な成熟状態を指します。これはすべての人間関係や企業に当てはまる要素なのです。
新・定義: POWER 「パワー」
利己を抑え、人間同士の絆や信頼、直観力といった複雑な人間的側面に注力できる能力。
企業リーダーが今すぐ使える強みとは何ですか?
リーダーシップをとるには2つの基本的な人間的資質が要求されます。それは「愛」と「パワー」です。「愛」を持って組織を率いることは、組織の全てのレベルで信頼、尊敬、正直、本物感、絆といったものを助長することにつながります。信頼の欠如によって全てを自分でしようとするのではなく、専門知識を持つ社員を信頼して任せることです。発する言葉は明快で正直、プラス志向、かつ常に社員を尊重し、支援を行うことです。「愛」とは個の資質を抑えるのではなく、個が最大限の能力を引き出しながら責務を遂行できるように激励し続けることなのです。
「パワー」と「愛」は矛盾しませんか?
一見そう見えるかもしれませんが、まったく矛盾しません。リーダーシップにおける「パワー」の資質は明白です。特に、西洋的概念では「パワー」とは主に統制力と捉えられていますが、私はそういう意味で言っているのではありません。あくまでも現代的解釈での「パワー」です。それは利己を抑え、人間同士の絆や信頼、直観力といった複雑な人間的側面に注力できる能力です。これを一旦、習得すると、多くの時間やエネルギーを割く必要がなくなります。今日のリーダーは、意識改革して「愛」と「パワー」で経営に携わるようにしなければなりません。
今日のリーダーが直面する課題とは何だと思いますか?
グローバル社会で前向きに事業に取り組むには、リーダーは既存の植民地的あるいは階層的な管理意識を変える必要があります。この体制は利己的、支配、私利私欲的陶酔、高慢といった状況を生み出します。そこには他者への愛や理解はなく、ただ自己の利益を追求するものです。この考え方が時代遅れであることは明らかで、未だにその体制を維持しようとしている企業やリーダーたちが苦境に立たされている姿は当然の結果です。
いまや、時代はよりオープンで、より人間的な資質を重視する「共生」、「多様性」、「絆」、「人間関係」といった言葉で表されるグローバルで多文化的な体制に移行されようとしています。今、企業のリーダーたちが自問しなければならないことは、「優れたリーダーになるには愛とパワーをどう使えばいいのか?」ということだと思います。