デザイン

Q&A – David Rockへのインタビュー

所要時間 8分

多分、あなたはこの記事を読み終わる前に何かの邪魔によって途中で中断させられてしまうでしょう。

仕事で深く思考するには、リーダーはどう考えるか、意識的に脳が解決できない問題をどう無意識レベルで考えるかなどRock氏が本で書き、伝えていることは脳科学と人間行動の関係です。

Rock氏は脳科学と人間行動学を人材教育と組み合わせた「ニューロ・リーダーシップ」という造語をつくり出した人物。ニューロリーダーシップインスティテュートを共同で創設し、一般の人や企業に対して、人間の潜在的意識や能力、人間の脳がどう機能しているかなど脳科学を応用した人材教育を研究する機関としてサービスを提供しています。最近、ニューロリーダーシップグループの調査内容をまとめた本によると、6,000人を対象に、名案を思いついた場所を聞いたところ、たった10%の人がオフィスと回答したということです。これは企業の経営陣にとっては厳しい結果といえます。

Rock氏自身は神経科学者ではないですが、神経科学者や企業のリーダーたちと一緒になって、脳科学的に企業のリーダーシップ開発を推進している1人です。コンサルタント兼作家として活躍。ロンドンのミドルセックス大学で神経科学の博士号を取得しています。

平均的な管理職は8分毎に注意散漫になり、外部からの邪魔によって仕事が中断し、仕事に戻るまで総就労時間の28%を費やしているという調査結果がでています。Rock氏はこの結果に対して、どうして、どうやって解決するかという点を分かりやすく説明しています。Rock氏はベストセラー書「Your Brain At Work-仕事脳」の著者であり、ニューロリーダーシップグループの創設者。ヨーロッパの国際ビジネス学校のCIMBAで教鞭に立ち、リーダーシップや企業の成果と脳の関係に関して多くの雑誌に寄稿しています。

外部からの邪魔で仕事が中断し、気が散ることは企業の生産性を低下させ、あらゆる企業の収益性に影響を与えます。どうすれば社員が仕事に没頭し、より良い思考を得られるのかを深く探ることは最終的には企業の成果を向上させることにつながることはもちろんのこと、社員のウェルビーングを助長させることにもなります。

あなたは今日、人々は莫大の量の外的刺激にさらされていると記していますが、それはどういうことですか?

私の著書「Your Brain At Work – 仕事脳」が2年前に世に出てから、人々が毎日経験する仕事が中断される量と1時間に人々が達成しなければならない仕事量は確実に増加しています。実質的に情報は光のスピードと同じ速度で伝播し、その速度は200年前の何倍とも言われています。情報や通信の効率化が上がると、むしろ人間の注意力や意思決定能力は低下しているのです。人間の処理能力やその時間には限界があるため、人間の集中持続時間は下がるのです。例えば、私たちは一度に5人の人と会話をすることは不可能ですが、2人ぐらいは可能であると思っています。しかし、実際はそれも確かではありません。

毎日、人々がベストな状況で仕事ができないのは注意散漫が原因ですか?

注意散漫は理由の一つではあります。他の理由としては、人間が1日にプロセスできる情報量には限界があるということです。その効果を測ってみると、ベストな状態で仕事ができた時間はたったの2-3時間で、残りの時間はその半分ぐらいでしかなかったのです。1日中全力で仕事が出来るものと思うと、集中力や意思決定能力への負担が増します。休みもなく働かされることで脳は疲労し、その結果、ネットなどにアクセスし、そこでさらに圧倒的な刺激を受け、事態を悪化させてしまうという具合です。

ネットなどのテクノロジーはどのくらい人間を注意散漫にさせるものでしょうか?

テクノロジーが人間の注意散漫のもとになっていることは確かです。ここに面白いデータがあります。多くのデバイスを使用している人、一度に2つの画面を活用している人、マルチタスク作業をする人などは注意散漫になりやすいというものです。マルチタスクになればなるほど、達成効果は低くなるという具合です。注意散漫になればなるほど、人間は集中できなくなるのです。また、高度に自由自在にデバイスを使いこなす人は注意欠陥的要素が多く、集中するのが非常に難しいと感じているという調査データもあります。

注意散漫がどのように仕事に影響しますか?

中断されることで人は思考の中で一度場所を失い、その元の場所を探し出し、完全に戻るのには時間がかかるのです。これはただ本や書類の中だけの問題ではありません。中断される度に、それを戻すにはとてつもないエネルギーが必要とされ、そのプロセスは人間の身体を困憊させます。脳にとっても同様で、その邪魔を防ぐために意識的に機能することを強いられるのです。ですから人間は簡単に中断され、注意散漫な状態に陥るのです。

「社会的な相互交流は脳によい。」

邪魔にも良い、悪いがありますか?

ほとんどの邪魔は社会的なものです。社会的な相互交流は脳によいとも言われています。人間の脳は生き延びるために、まわりの環境の中で何が起きているかを察知する能力が組み込まれています。誰かが自分の席を通りかかる時、メールを受信する時等、どうしてもその人が誰なのかを知りたくなるようにできているのです。それは反射的行動で、どうしても避けることができないのです。ですから、外部からの邪魔を遮断したり、深く思考できるような時間や「場」をどうやって創るかを意識的に考える必要があるのです。

人が働くための最適な環境とはどのようなものだと思いますか?

それは決して一つの環境があるわけではありません。例え、それが決まった業務をこなす人であったとしても、最適な環境というものは一日、一週間を通して絶えず変化するものです。完全に外部の世界をシャットアウトでき、完全に仕事に没頭できる時もあります。同時に他者と一緒に作業をしたり、カフェのように人の気配を感じながら仕事をしたいと思う時もあるのです。

また、他者とコラボレーションする際には頭にあることを書いて整理したり、様々な方法でそれを視覚化したり、モノを移動したりしたいと思う時があります。人々は集い、考えを視覚化したり、また人を避けて、静かに集中し、また他者の中に交じるという多くのオプションを必要としているのです。理想的な環境とは必要に応じてさまざまなスペースの間を自由に行き来できるスペースということです。その中で人は自律性を与えられることになります。

つまり、自律性やコントロールを与えることが邪魔を防ぐ一つの方法のようですが。

調査は、スペースにおいて社員に自律性を与えると生産性が3分の1向上したと記しています。ですから、理想的なワークスペースとは社員のニーズは1日、1週間を通しての絶えず変化していることを理解し、社員が働く「場」を選び、コントロールできるスペースであることがこのことからも分かります。

例えば、歩いたり、景色を変えたりということが何故集中につながるのでしょうか?

論理的に問題を解決する能力にはかなり限界があります。簡単な問題のほとんどは脳の無意識部分が解決しています。ですから複雑性を伴う問題に直面した際に一番効果的な方法は自問し、意識的に気が散ることをしながら問題を忘れ、しばらく何か他のしたいことをすることなのです。実は他のことをしている間も脳の無意識部分は動きつづけていて、改めて問題に立ち返った時に最初に論理的に考えて続けていた時よりもはるかによい答えを導きだすことが出来るのです。

このように役に立つように気を散らすことをどうやって上手く利用したらよいですか?

冷静に何かを解決するには脳をクールダウンさせる必要があります。歩いたり、運動をしたり、何か気持ちがいいと思うことをしたりすることが脳を休めさせます。そうすることで何か内面から聞こえてくるものがあるはずです。新作の「メン・インブラック3」という映画で、ある男が「この複雑な問題を解決しに、パイを食べていこうぜ」と言うと、他の男がその男を見ながら「お前、気でも違ったのか」と言うシーンがあります。これは決して彼が気が違っているのではなく、そこにはまさに科学的根拠があったのです。何かしたいことをすることによって、脳が休み、解決案が閃くという具合です。

仕事場でどうやって気が散らないようにできますか?

まずは、注意力には限界があることを知ることです。どうやって気が散ったかは別としても、一度気が散ったら、元に戻るにはかなりの努力が必要で身体を疲れさせるということです。それ故に、人々が外部の世界をシャットダウンでき、集中して仕事ができる「場」、また、人とコラボレーションが必要な際にはそれがすぐに可能になる「場」が重要になります。つまり、選択と自律性です。必要な時にいつでもこれらの異なるスペースを行き来できるようにすることが不可欠なのです。

もう一つは偶然に人が出会う「場」を仕掛けることです。先に述べたように、このような行きあたりばったりに人が出会うことは脳にとっては極めて刺激的なことだからです。

必要に応じて、1人で集中でき、コラボレーションが必要な時には瞬時にコラボレーションができ、人同士が偶然にそして頻繁に出会う「機会」を与えること、それがまさに人々が現在、必要としているものだと考えます。


健康な脳をつくる7つの考慮

Rock氏が言うには健康な脳をつくるには7つの意識的な手入れが必要だということです。下記が心に栄養を与える7つの神経認知活動として定義されています。

睡眠時間 心身を休ませ、記憶を整理する
遊ぶ時間 人生で試したい楽しいことをする
隔離時間 バランスを取り戻し、何かを発見するためにすべてから離れる
交流時間 人間関係で自分を癒す
運動時間 動くことから脳の適応力を向上させる
集中時間 成果を出すために注意力を集める
内省時間 内省し、高次な波長に合わせたり、瞑想など「今」に意識を向ける

「最終的に脳の健康のためには、これらの7項目すべてが必要になります。とかく軽視しがちなのは睡眠時間、社会的な交流時間、そして遊ぶ時間です。特にソーシャルな時間は私たちが思っているよりも、健康的に脳を機能させるには最も重要な要素と言われています。」とRock氏は述べています。

関連記事

Karin Jironet博士へのQ & A

Karin Jironet博士へのQ & A

リーダーシップの権威であるKarin Jironet博士がリーダー シップの次なるステップとしての愛とパワーを語る。

Q + A レイ・オールデンバーグ

Q + A レイ・オールデンバーグ

自宅と仕事の他に存在する社会的な「場」としてのパブリックな「場」という考え方は、何世紀もの間存在してきましたが、それが「サード・プレイス (第3の場所)」として辞書の中に登場したのは、社会学者のRay Oldenburgが1989年の著書「The Great Good Place」の中でその概念を詳細に解説してからでした。それ以来、この考え方は常に注目されてきました。

ハイブリッドオフィスの 効果を検証する

ハイブリッドオフィスの 効果を検証する

ハイブリッドコラボレーションスペースのプロトタイプを試し、学んだこと。