可能性の限界を広げる
米MITのセルフアセンブリーラボ、3Dプリントの限界に挑戦
Skylar Tibbits(スカイラー・ティビッツ)という名前をグーグル検索してみよう。人間やマシンではなく、モノがそれ自体を創るという彼のTEDトークでのプレゼン。聞いただけでその内容に興味をそそられる。YouTubeで検索して、是非彼のプレゼンを見てみて欲しい。
コンポーネントは構造体に組み込まれ、材料は再構成され、液体から固体へ移行するという、まるで自己組織化装置のように動くのだ。
Tibbits氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のセルフアセンブリーラボ(自己組織化ラボ)とそのチームをJared Laucks氏と共に創設し、共同ディレクターとして、物理とデジタル世界を融合させることを日々探求している人物だ。このチームはすでに目のくらむような数多くのイノベーションを起こしている。 SteelcaseとデザイナーのChristophe Guberan氏が協力したセルフアセンブリーラボの最新実験の1つは、3Dプリントを制約している3つの要素「スピード、スケール、マテリアルプロパティ」に挑むことだった。そして、その結果として、Steelcaseブランドの一つ、turnstoneのBasslineテーブルの複雑な格子のテーブルトップをつくりあげた。
Tibbits氏率いるチームとデザイナーのGuberan氏、そして、Steelcaseはこう自問した:3Dプリントを活用してチェアを分単位で製造できないだろうか?チェアはおそらく可能だろう。テーブルトップは実際には28分だった。チームは連続液界面3Dプリントと呼ばれる新しい3Dプリント技術を開発した。この技術は、ゲル状の3D空間でデザインを印刷し、高品質の数種類の材料を用いて大型のカスタマイズ製品を信じられないほど高速で造形することを可能した。
「3Dプリントの普及を妨げているものには主に3つの要因があります。 その一つがスピードです。プリントは他業種のプロセスと比較して決してスピードが速いとは言えません。 2番目はそのスケールです。通常、そのプリント数量はかなり小規模です。」と Tibbits氏は語る。爆速の液界面プリントは、設計デザインと製造方法を一体化することで既存の手法を変えるという最適な例であり、まさにセルフアセンブリーラボが積極的に推進している分野だ。
「創造性とは実験と研究に尽きると私は思います。私たちの目標は可能性の限界を広げることで、それは今までは不可能だと思われたことを現実のものにすることです。」とTibbits氏は主張する。常に新しい着想を得るために、ラボは敢えてさまざまな経歴や経験を持つ学生や研究者で構成されていて、批判しあうことを旨とする。 「新プロジェクトが立ち上がる度に10の新たなアイデアが生まれ、以前のプロジェクトは過去のものでしかなくなります。プロジェクトをよりスマートに、より速く、より良いものにすることを常に目指しています。そのためには複雑さを減らすこと、そして、機能的であることが重要なのです。」
セルフアセンブリーラボにとって、その創造性に不可欠な要素がコラボレーションである。さまざまな業種や分野の人々をオープンにコラボレーションさせることが彼らのスタイルである。 「空間における先導的リーダーであり、未来の素材や人間の快適性、新たな製造手法を探求し続けているSteelcaseと私たちの研究内容や可能性の領域を広げていこうという姿勢が見事な相乗効果を生んだのです。」とTibbits氏は述べている。
「新プロジェクトが立ち上がる度に10の新たなアイデアが生まれ、以前のプロジェクトは過去のものでしかなくなります。」
Skylar TibbitsDesigner & Computer Scientist, MIT
1ヶ月もの間、集中的に開発した後、3DプリントでカタチになったBasslineテーブルのトップは、コンセプトが見事に家具として具現化されていた。この高速での反復工程は、まさにプリントがデザイン制作者になる瞬間だ。「デザインはこの制作プロセスを経てカタチになり、新たなデザイン言語が形成され、機能も同様に形成されるのです。」とTibbits氏は語る。
セルフアセンブリーラボは、進化し続ける新たな建築システムや製造プロセス、材料の分野での可能性を探求し続けている。 Tibbits氏はこう語った。「私たちにとって重要なのは、具体的なビジョンよりもそれに向かう探究心です。そして、根本にあるのは驚きです。どう自分自身を驚かすことができるか。既存のものを壊し、モノ作りを通して、試し、真の意味でデザインするにはどうすれば良いかということです。
」それは誰にも分からないことだが、私たちはそれを期待を持って見守るしかない。