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企業が注力すべき4つのマクロ的視点

グローバルレポート「従業員意識の変化と働き方の未来」の続き

所要時間 9分

コロナ禍での従業員のさまざまな経験が意識や価値観の変化を起こし、オフィス勤務復帰の際の企業の対応やオフィス戦略の見直しにも大きな影響を及ぼしています。コロナ禍以前から指摘されていたオフィス環境再構築の必要性は、コロナ危機によって浮き彫りになりました。そして、今回の調査によって、従業員が仕事に専念し、成果を上げるための安全かつ競争力のある「場」の構築には、4つのマクロ的視点を考慮しなければならないことが分かりました。

安全性を考慮する

調査によると、オフィス勤務復帰に際した心配事項の多くが、安全性に関するものでした。会社の感染予防策を見える化し、従業員が安心して仕事ができるようにすることが重要です。年齢、能力、健康上の問題に関係なく、すべての従業員の安全を考慮した包括的かつ体系的な安全対策が肝心です。

コロナ禍以前は、企業の安全対策とは、従業員が健康かつ安全に労働できるようにするための安全義務対策や労災等の防止対策でした。しかし、今後は、ウイルス蔓延防止も含む多面的かつ体系的なアプローチを取る必要があるでしょう。これには、マスク着用や対人距離の確保などを文書化した従業員の行動規範の設定も含まれます。また、呼吸や通常の会話の際の飛沫が環境内でどう浮遊、移動するかを理解し、ウイルスの蔓延を緩和/防止するための多面的な戦略の構築も重要になります。

ワクチンが広く摂取された後も引き続き安全対策に取り組むことで、企業は将来の同様の危機にも備えることができます。

ウイルス感染防止対策に対する世の中の意識の高まりによって、オフィスでのウイルスの検出や予防を可能にする環境は、働きたいと思える環境づくりと同様に価値あるものと捉えられています。

新たに企業が取り組む安全対策とは:

室内空気質

空調システムを考える際には、室温に加え、湿度、ろ過、空気希釈、空気の動きを理解すること。屋内だけでなく、屋外を人の「交流」だけの場所にするのではなく、集中やコラボレーションができるようなより高性能なアウトドアスペースの設置も考慮することでリスクは大幅に軽減できる。

密集度

スペースをより柔軟にレイアウトすることで、コロナ禍での密集度を削減できると同時に、その状況変化によって密集度合いを調整できる。

規則性

仕切りがない場合には対面の向きを変更し、デスクを再構成し直す。

分割

距離の確保が難しい場合、前方に飛沫拡散しないようにパネルを仕切りとして設置することでウイルス蔓延を最大限に予防できる。前方に飛沫が飛ばないようにハードな表面や布張りの仕切りを設置する。

素材

接触感染を防ぐために、手指が触れる家具の表面の消毒・洗浄はこれまで以上に重要になる。洗浄と消毒が必須になる今後のオフィス環境では、時間経過とともに劣化しづらい無垢材や集成材、クリーニングしやすい滑らかな表面や連続洗浄でも劣化しない布地が新たなスタンダード素材に。同時に、創造性を掻き立てる感性豊かな素材を組み入れることも忘れてはいけない。

衛生

定期的な清掃を見える化することで従業員は安心して仕事に専念できる。消毒液をどこでも誰でも利用できるようにし、共有スペースの利用前後には利用者本人が清掃をすることを義務化する。また、視覚的サインで個々の衛生習慣を徹底させる。

センサー

センサー技術を活用すると、スペースの利用率、清掃回数、利用時間や場所、その利用実態を把握できる。

非接触

可能な限り非接触デバイスを導入する(ドア、蛇口、スペースの予約システムなど)

心理的な安心感

会社がウイルス蔓延防止策を講じているということを社内で見える化し、各自が物理的距離を確保し、最も安全で安心だと感じる場所を選択できるようにする。

Work Better Campaign

生産性を考慮する

コロナ禍以前のオフィスは、あくまでも効率重視、単一の目的と働き方をベースに設計されていました。そして、オープンな執務スペースでは集中できないという不満も多くありました。

今後のオフィス環境計画は、コラボレーションと集中ワークがバランスよくサポートされた多目的スペースが主流になると思われます。

これからのオフィスは、個人ワークは在宅、オフィスは人が集うだけのソーシャルハブにはなりえません。調査によると、多くの人が在宅勤務に不満を抱える現実を見ると、それは決して包括的な戦略ではないからです。つまり、これからのオフィスは、チームの協働の「場」であり、個人が集中できる「場」の両方を提供する環境ということになります。

あらゆるタイプの作業ニーズを満たすためには、下記の項目を考慮しましょう。

対面コラボレーション

コラボレーションを成功に導くには、必要なツールやテクノロジーを備えた高性能スペース、さらにイノベーションの想起には、「個」と「チーム」両方のタスクを素早くスムーズに切り替え、移動できる環境を創出すること。

バーチャルコラボレーション

テレワークの定着により、リモート会議はスタンダードになりつつある。場所がどこであろうとメンバー全員がより対等に会議に参加し、成果に貢献するためには、外部からの邪魔を防ぎ、ウェブ会議に集中できるプライバシースペースの設置は欠かせない。

プライバシー

コロナ禍前は、オープンレイアウトの執務環境にプライバシーを確保できる場所がないことが問題になっていた。この課題は今後さらに顕在化し、具体的な取り組みにつながるだろうと予想される。在宅勤務では、家庭内での煩わしさを逃れて仕事に集中できる場所や時間を見つけるのに苦労している人も多い。オフィスでは、視覚的、音響的、区域的のあらゆる側面からプライバシーを調整できるスペースづくりが必須である。

移動性

研究によると、身体運動は創造的発想を高め、チーム内の対等な参加を可能にすることが証明されている。また、人の移動はもちろん、ホワイトボード、デジタルデバイス、電源などの仕事ツールを全て可動式にすることでアイデアを止めずによりスピーディに複雑な問題も解決できるようになる。

Work Better Campaign

一体感を考慮する

デザインを誇張したおしゃれなオフィス環境を有能な人材を獲得するための手段のひとつとして位置づけていた企業もあります。

しかし、企業成長を促すコミュニティとしての一体感や団結力が鍵になるこれからのオフィスは、その見た目だけでなく、従業員をあらゆる面から刺激する「場」でなければなりません。そこには安全対策を重視する一方で失われがちな人間性や人間的な温かみを加える演出も考慮しなければならないということです。

在宅勤務で孤立感や孤独感に陥る人が多い中、コミュニティとしての居場所となるオフィスの存在がかつてないほど重要になっています。

調査によると、オフィス勤務復帰を望む上位2つの理由は、同僚と対面で会い、会話をすることだという声も多いのは確かです。ネットだけでのつながりは孤独や孤立感を克服するのには十分ではないことが分かっています。オフィスに居ることで帰属意識を感じ、同僚やさまざまな多彩なスペースと触れ合うことで感性や創造力が刺激されることを望んでいます。

オフィスはただ単なる働く「場」から、人のつながりや絆を築き、目的意識や帰属意識を育むための「場」へ。そのインフラとしてのオフィスの真の役割を認識すべき時に来ています。

一体感をサポートするためには
下記の項目を考慮しましょう:

活力

対人距離を確保しながら、オフィスのデザイン性や見た目、雰囲気を演出しながら、五感や好奇心を刺激し、新しい発想が生まれ、前向きな気持ちで働ける活気に満ちた空間を創出する。

インクルージョン

リモートから働く人が増える中、多様な欲求とワークスタイル(体型、考え方、内向的vs外向的など)を考慮し、分散型ワークをサポートする。

信頼

経営層と従業員との間のコミュニケーションやつながりは、今まで以上にその重要度が増している。オフィスは企業の透明性を表現し、経営スタイルを可視化し、いつでも階層を超えてコミュニケーションができるフラットな環境を創出することが重要になる。

レジリエンス

オフィスは、適応力が高い組織風土を表現する重要な戦略的ツールで、将来のあらゆる危機や逆境にも対応できることを従業員に伝達する役目も果たす。

環境的および社会的影響

誰でも仕事に目的意識を持ちたいと感じている。環境への取り組みや社会的責任へのコミットメント、その強力な統治姿勢(ESG)が従業員の業務の優先順位づけと行動力を発揮させる。

Work Better Campaign

柔軟性を考慮する

オフィスはもともと恒久性を前提に設計され、躯体や家具は極めて固定的で変更が困難でした。しかし、これからのオフィスは、将来の社会的混乱や危機に備えて、より柔軟に適応できなければなりません。

今後、企業はより柔軟な働き方を考慮した環境づくりに向けてシフトすると思われます。

個人やチームが必要に応じて自分たちの手で家具を移動させながらスペースを再構成するように設計されなければならない。

オフィス勤務復帰の際には、より多くの選択肢とコントロールに加え、仕事に集中することで生産性が上がるような適切なツールやテクノロジーを利用できるようにすることが重要なポイントです。

さらなる柔軟性を高めるには、下記の項目を考慮しましょう:

多目的利用

固定壁ではなく、より柔軟な内装建築要素によって躯体空間は多目的利用が可能になる。

マルチな作業モード

複数の作業モードをサポートすることでスペース稼働率を改善させる。例えば、オフィス内のカフェを高性能なコラボレーションへ、トレーニングスペースは大人数でのチームスペースへと変換できるなど。

移動可能

ホワイトボード、デジタル画面、間仕切り、テーブルやデスクなどを全て可動式にし、簡単に動かせることで、対人距離の確保はもちろん、作業内容や人員数によってスペースの調整ができる。

より豊かに働くをデザインする

従業員が何を必要とし、働き方改革はどう前進するかを考える際、まずは長きにわたって支配的規範とされた画一的なオフィス設計基準を変えるべきです。コロナ禍前は、オフィスの設計デザイナーの着地点は、優秀な才能を引きつけ、コラボレーションを強化し、スペース効率を最大限に上げることでした。しかし、これからはそれに加え、さらに従業員の意識や価値観の変化によって浮上した多様な欲求への対応を迫られます。

当社の設計デザイナーは、人々がより豊かに働く安全かつ競争力のある環境を創造するために、新たな設計デザイン基準を設定しています。

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