Q+A David Kidder
「スタートアップ」 の視点で 考える。
今は大企業であるグーグルの持ち株会社であるアルファベット(Alphabet)からアパレル通販大手のザッポス(Zappos)など、貴重なブランドの多くは、スタートアップから始まっている。 だからこそ、企業が事業を成長させるためにはスタートアップのように考え、行動しなければならないと述べるのは作家でありBionicのCEOであるDavid Kidder氏だ。ではそれをどうやるのか? それは成長のためのOS(オペレーティングシステム)と称するあるシステムを介して、ベンチャーや起業家精神を持つ人や組織のマインドとその基本的な仕組みを取り入れてみることだと言う。
企業組織はどう「成長」というものを捉えるべきですか?
DK:まだ掴めていない新たな問題やニーズを把握するところから企業の「成長」は始まります。明確には分からない問題に投資し、想定もしえない答えを見つけ出すというように、常に起業家であるという意識を忘れてはいけないのです。大企業は効率重視の経営ですが、今日、多くの企業はすでにリーン経営(贅肉が少ない)をし、自分たちの意志で経営する方法も分かっています。欠けているのは自発的に事業を成長させようとする力です。 効率を上げるのと同じ方法では成長は期待できません。要は問題やニーズを見つけながらどこに投資するかを積極的に探し出し、事業を構築していくというその成長プロセスを作り出すことだと考えています。
360:企業経営者たちは起業家というレンズを通してどう行動すべきだと思いますか?
DK:Jeff Bezosという株主が書いた「デイ・ワン(1日目)」カンパニーについてという非常に印象深い手紙があります。そこにあった基本的考えは、創業者の考え方を継続している組織は、規模が拡大してからもその起業家精神を継続的に引き継いでいるということです。このような「刷新」、または大企業を創業のルーツに戻すことは、企業組織のリーダーシップと組織変革の核心とも言えるのです。この手紙で、Bezos氏はウォールストリートの短期的な投資家の期待に応じるのではなく、長期的な成長のための投資がいかに重要であるかを述べています。
360:企業はどこに投資すべきか、あるいは解決しなければならない問題をどう特定すべきですか?
DK: 多くの企業リーダーは、把握している問題に対しては回答を持っていますが、まだ存在しない、見えないものに対してはどうしたらいいのか検討もつかないのです。マーケットは効率や予測に重きを置きがちなため、企業は経営3年計画を四半期ごとに見直すという方法を取っています。しかし、3年を超えると、市場、テクノロジー、ビジネスモデルが既に変化しているため、既存のプランニングモデルは通用しなくなります。変化のスピードが計画の期待値を上回ってしまうのです。ですから、製品ラインを一つに絞り、年に2つとか3つのアイデアを綿密に計画するというより、その数を30に増やしてみると、マーケットの誰よりも速く学習し、その結果、ビジネスとしての勝機や新たな成長をより早く見つけることができるのです。
360:あなたはどうその勝算確率を高め、学習と発見のサイクルを短縮させているのですか?
DK: 典型的な例は、企業リーダーが新しいアイデアを見聞きした場合、それをどう思うかをチームに伝えます。それはチームの主体性や学習する機会を奪っているとも言えます。多くの場合、リーダーが言うことを無視するわけにはいかないのです。失敗をした時の損失が大きいため、真実を伝えることができないのです。一方、ベンチャーや起業家精神を持つ企業リーダーは、「真実を話して欲しい」と考えるのです。
失敗した場合の費用が低い場合、チームは最も速く、最も安く失敗し、経営幹部にその結果を伝えます。起業家にとって、問題に注力することが重要で、結果として問題解決につながる限り、アイデアそのものはどうでもいいのです。
360:物理的環境はこの起業家のマインドと関係がありますか?
DK:他の人とは異なる考え方や学習の仕方をして欲しいとしたら、今までと同じ物理的環境で働いていてはダメです。 「皆と同じ考え方をするな」と命令しながら、画一的なオフィスで働かせることは理論的におかしいでしょう。他者と異なる学習成果を生み出すには、今までとは異なる環境やそこでの体験が絶対に必要です。
360: 企業が求める創造型ワークに必要な有能な人材は、今までとは異なる環境を求めていると思いますか?
DK: もちろんです。当社でも卓越した人材獲得競争に直面しています。18億人いるミレニアム世代は、国境を越えて働き、考え、経験し、モノを購入、開発、発見できる環境を望んでいます。これは効率重視の企業経営理念とは大きく異なります。職場環境での効率とは主には測定可能なスペースを指していて、効率重視はそれなりに機能したのですが、今、マーケットは創業者重視の企業形態にシフトしているのです。世界に向けて価値を創造している人々は、過去20〜30年にわたって効率を構築した人々とは違うことをよく分かっています。物理的環境は企業の成長の鍵を握る企業カルチャーやそこで働く人々をサポートするように進化していかなければなりません。これを無視するわけにはいかないのです。
360:あなたの会社のオフィスはどんな雰囲気ですか?
DK: 私は環境の全てのものをツールと位置づけています。立って仕事ができるスタンドアップデスクから小さなウォールーム、大規模なラボ、会議室、ジェダイラウンジと名付けたスペースまでその種類は多彩です。私たちはオフィススペースの隅々までを有効活用し、コミュニティラウンジからケータリングバー、ベンチャーミーティング、ボードミーティング、コラボレーションセッション、熟考といった広範囲にわたる活動をサポートしています。企業として成長し、常に新しいものを追い求めるには、有能な人材を雇ってその人たちを退屈な空間で働かせるにはいかないですよね。私たちが考えるオフィスとは、社員の成長と発見につながる経験と成果を生み出す「場」なのです。
360: 企業のさらなる成長を妨げている最大の要因は何だと思いますか?
DK: 多くの企業が直面している問題は、人材でも資金繰りでもありません。一番の問題は経営幹部レベルで起こる裁量権の問題です。その範囲が狭すぎるのです。企業の考え方の象徴でもある四半期決算という手法では、社員は新たなアイデアに向けて時間やエネルギーを費やしたり、その予算どりをすることも不可能なのです。大きな利益につながっているものは、実際には総意を持っての決定でないことが多いのです。しかし、強い信念がありながらも合意がとれない時こそ思わぬ発見に結びつくことも多く、周囲にとっては非常に奇妙に見えるアイデアこそが想定外の利益に変貌する可能性が高いのです。誰もが理解でき、納得する「良いアイデア」はそれほどインパクトもなく、利益も少なく、多くの場合成長を生み出すほどには至らないのです。それに対して、総意ではなく、確固とした信念に基づいたベンチャー型アイデアこそが求められているもので、企業にとっての新たな成長をもたらすものなのです。
David Kidder氏はBionic社の “起業家の集合体”について、また、最上のアイデアを見つけるための5つのレンズについて語っています。iTunesとSoundCloudで利用可能なSteelcase 360リアルタイムポッドキャストで視聴が可能です。