組織文化 + 人材

人工知能(AI)はどう世界をカタチづくるか?

FOWARDフェローシップを通してデザイナーたちはその可能性を探求した。

所要時間 5分

デザイン業界は弛むことなく進化し続けている。今日、デザイナーたちに求められるものとは、新たなテクノロジーを活用しながらいかにスピーディに創造性の高い作品を生み出し、クライアントの新たな期待や要望に応えていくかだ。今後5年から10年の間にビジネスに影響を及ぼすテクノロジーの多くはまだ市場に登場していない。例え市場にあったとしてもそれらがどれほど私たちの生活にインパクトを与えていくかはわからないのだ。まさにその中心にあるのがAIの存在だ。AIにはあらゆる業種を動かす計り知れないポテンシャルがあるがその大部分は未だ曖昧なままだ。デザインにとってAIとは何か? 人間が創造し、生活し、働く環境をどうカタチづくっていくのか? 世界中の才能溢れるデザイナーたちはそれぞれに興味深い見解を提示した。

「デザイン思考とはビジネスにおける未来です。」と語るのはSteelcase Design AlliancesのプリンシパルであるJerry Holmes氏だ。Steelcaseの研究員と連携しているSteelcase Design AllianceがSavannah College of Art and Design (SCAD)のDesign Management Programと共に立ち上げたのがFORWARD(フォワード)フェローシップというプログラムである。このプログラムでSteelcaseとSCADが素晴らしいパートナーだと考えるSCADデザインマネジメントのTom Hardy教授はこう語る。「Steelcaseとその社員は人を引きつけ、活動を率先してこなすインサイトを持ち合わせているのです。Steelcaseとの最初のフェローシップから私たちはこのデザイン思考というコンセプトにずっと注目してきました。」

このチームは第二期に競合他社や世界中からデザイナーたちをグローバル デザイン思考 フェローシップに招待した。目的は今日顧客が直面している複雑な課題を解決する為の対策と思考方法をデザインコミュニティにもたらすためだ。

中核となる論点

各参加者にはこの中核となる論点、つまり「人間とマシンの両方を合体した能力を最大限に活用できる環境をどうデザインできるか?」を解決することが課された。4つに分かれたチームは時差や本業の仕事との折り合いをつけながら1年間にわたって調査、分析し、ソリューションを特定することに取り組んだ。

各チームがそれぞれに興味がある視点でこの中核となる論点を考察した結果、発見した事項が下記になる:

  1. 職場環境におけるストレスや不安を軽減する。
  2. 前向きな行動やウェルビーイングに焦点を当てることでより良い仕事体験を実現する。
  3. 職場環境における人と人とのつながりを強化する。
  4. AIを活用して学生の体験に付加価値をもたらす。

デザイン思考の短期集中コース

このプログラムは、昨年夏、イタリアのローマで全く知らない者同士が初めて集まってスタート、デザイン思考サマーキャンプのような1週間を共に過ごすことになる。参加者たちをリードするのはSCADのデザインマネジメントのTom HardyとBill Lee両教授、Steelcase研究員であるMelanie Redman氏、Vanja Misic氏の4名だ。この4名のリーダーがAIや台頭するテクノロジー、シナリオ立案やSTEEP(社会、技術、経済的、環境、政治)の枠組み等の課題のワークショップを通して参加者たちを導いていく。プログラム終了後に自国に戻った際には全ての参加者たちはこれらの課題に対して組織の枠組みを超えてSteelcaseの専門家たちと引き続き対話ができるような仕組みだ。

AIの未来

AIをどう活用するかに関して様々な革新的なアイデアが参加者から生み出され、そこから分かったことは、デザイン思考がどれほど深く広く研究リサーチやソリューションを掘り下げていくかということだ。チームはAIという人格は直感的に作動し、電子メールでもソーシャルな方法でコミュニケーションできるだろうと主張した。そうすると仕事で必要な人間同士のつながりも可能になるかもしれないのだ。また、AIは人間がストレスを受けたりウェルビーイングが低下した際に、瞑想や観葉植物などの自然をオフィスに持ち込むタイミングをシグナルとして送ることもできるようになると強調した。

AIは物事をより容易にし、個人の好みに基づいて環境をシフトさせる以上の事ができるのだ。 AIの未来は文化的、社会経済的な様々な障壁を排除できるなど大きな可能性を秘めている。自動翻訳によって複数の言語を操ることももはや問題ではなくなった。誰もが学習できる環境。例えば、どこからでもコンタクトレンズを装着すれば没入型の大学キャンパスに侵入でき、興味や必要性に応じて世界中の学生が教授と容易につながる環境だ。

参加者たちは、AIが未来にどう好影響を及ぼすかを発表している。AIはより民主的な偏見のない社会をつくり、私たちの生活はより健康的で幸せに満ち、人間がさらにつながりながら創造力を発揮できる世界だ。

閉会式

プログラムの最終週に参加者たちはIBMがミュンヘンに創設したIBM Watson IoTセンターを来訪した。IBMが描く拡張知能/人工知能の未来と同社のデザイン思考の活用方法を学ぶためだ。担当したのは同社のDawn Ahukanna氏、Laura Dohle氏、John Vasquez氏の3名。AhukannaとDohle両氏は、参加者たちの最終プレゼンテーションに出席し、洞察力の高いフィードバックを伝えた。

最終プレゼンの後、参加者たちはここで学んだことをそれぞれの会社で実践することのメリットを議論した。Julia Leahy氏はSTEEPの枠組みが同僚とのやりとりに役立ったと語った。「私は業種を超えたチームを結成し、ポストイットを使ってSTEEPを実践してみました。そして、皆に視覚的インスピレーションにつながるものとは何なのかと尋ねるのです。チームを前向きにひとつにするという意味でプロジェクトの出だしとしては最高でした。」これにはJames Merchant氏も同感し、シナリオ立案が顧客に大きなインパクトを与えたことをこう語った。「私はチームにシナリオ立案を提案しました。絵コンテやある日の出来事など実際の体験を描くことです。現に私はこれを顧客とも行っていますが体験談を通して対話をすることは非常に効果があるのです。」

Redman氏はこのフェローシップのメリットをこう強調する。「参加者たちはこのプロセスを日々の仕事で実践することができます。普段行っていることと全く違う何かを試みること、この機会がなければ決して出会わなかったであろう人と友達になること、こういったことがチャンスにつながるのです。」

このプログラムがもたらす成果についてはHolmes氏も同調する。「私たちが考える成果の素晴らしさとはデザイン思考スキルの習得です。デザイン業界はモノを生み出し続けなければならないというプレッシャーに晒されています。このゲームをさらに高いレベルに引き上げ、今までとは異なる方法で問題解決をすることが出来たとしたら、このプレッシャーから解放され、従来にはないより戦略的なアプローチをとることが出来るようになるのです。」

参加者とリーダーたちはドイツ、ミュンヘンにあるSteelcaseのラーニング&イノベーションセンター(LINC)に一同に集い、閉会式が開催された。

参加者

  1. Aline Browers、HLM ARCHITECTS、グラスゴー
  2. Christie Giemza、LITTLE、ローリー
  3. Dewi Schönbeck、CSMM、ミュンヘン
  4. James Merchant、AECOM、ロサンジェルス
  5. Julia Leahy、 IA、ボストン
  6. Katie Lin、IA、ロンドン
  7. Laura Langlois、ARP ASTRANCE、パリ
  8. Lonneke Leijnse、HEYLIGERS、アムステルダム
  9. Yelena Mokritsky、HOK、ニューヨーク

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