組織文化 + 人材

オフィス再開へのロードマップ

組織の活力を取り戻すためのSteelcaseの段階的ステップ

所要時間 13分

ドナ・フリン、グローバル人材担当副社長、Steelcase

現在、多くの企業が従業員をオフィス勤務に戻す方法を模索している。Steelcaseでは、米ミシガン州グランドラピッズにある本社キャンパスの本格的オフィス再開に向けて過去2回のトライアルを実施している。感染率が低下した昨年の夏に従業員をオフィス勤務に戻しながら、感染率が上がった11月には在宅勤務に移行している。

この自社での経験が戦略の有力な判断材料になり、ここ数か月間は従業員が真に豊かに働ける環境構築に向けた戦略の見直しに熟考を重ねてきた。

a man and woman walking through the LINC hallway

最新のマッキンゼー調査では、オフィス再開には戦略策定と社内コミュニケーションが重要要素として挙げられている。ほとんどの企業がハイブリッドワークを採用する中、68%の企業はポストコロナに向けての働き方への明確なビジョンにまで至っていないのが現状である。ビジョンやそれに向けての戦略が曖昧で不明瞭な場合、従業員は不安になり、モチベーションの低下にもつながっていく。

「組織のリーダーは、ポストコロナに向けての道筋を計画する際、その詳細が完全に固まっていない場合でも従業員とより頻繁にコミュニケーションをとることが重要です。実際、将来の職場環境に向けての具体的なポリシーとその道のりを明確に提示した企業の従業員のウェルビーイングや生産性は高くなっています。」

当社のラーニング&イノベーションセンター(LINC)内に新たに設置された「ソーシャルハブ」。オープンスペースの中でのコラボレーション以外に、食事やソーシャルな活動をサポートするように設計されている。活力と魅力ある空間が磁石のように人を引きつけている。

昨年の秋、オフィスの将来の姿やオフィス再開をした際に従業員がどう感じるかについて決して明確な答えがあったわけではない。しかし、その中でもそのビジョンを明確に描き出し、頻繁に従業員と共有し続けること、それがいかに重要であったかをその後学ぶことになる。

今春、当社は、オフィス勤務を増やす計画の詳細を社内で共有している。最大関心事である柔軟な働き方ポリシーをベースに安心安全なオフィス再開計画を策定し、チームリーダーとの連携を図りながらオフィス勤務と自宅などの他の場所でのハイブリッドワークの本格的導入を発表した。

こうした社内での情報の浸透に加え、継続的な反復がいかに重要であることも学んだひとつである。従業員とのコミュニケーション方法も時間の経過と共にさまざまな方法で展開することが鍵になる。人間の脳は変化を嫌うと言われている。長い間継続的に変化にさらされることは人々を疲れさせることは明らかである。よって全員がリモートワークという「ニューノーマル」に適応したちょうどその時に新たなメッセージを発信すべきである。

本社キャンパスで新たにリニューアルされたエリアのいくつかには、オフィス勤務に戻った瞬間を記録する「インスタ・タイム」というスポットが設置されている。
新たな空間の中での瞬間を写真に撮り、ハッシュタグを付けてSNSに投稿するという仕掛けである。

「チョイス + コントロール」型ハイブリッドワーク

当社では、10年以上もの間、「チョイス&コントロール」をベースにフレキシブルワーク(またはモバイルワーク)を実践している。従業員一人ひとりが何を誰とするのかに応じて、働き方、働く場所、働く時間を自らが選択し、管理していくという自律性を奨励する働き方である。この「チョイス&コントロール」は、ポストコロナのハイブリッドワーク方針としてアップデートされ、社内で広く情報共有されている。

また、「チョイス&コントロール」を全社に浸透させるために、従業員と管理職向けのガイド付きディスカッションツールを開発し、HRビジネスパートナー担当が全社員への指導を行っている。

STEELCASE ハイブリッドワーク方針

どこでどう働くかの計画をたてて毎日を充実させよう。

Steelcaseでは、「協働する」ことに価値を置いている。当社の調査によると、一緒にいることで相互の理解と信頼が生まれ、互いに学び合い、コラボレーションはより成功することが分かっている。

共に学び、教え、イノベーションを起こし、お客様をもてなすために集う「場」としてのこれからのオフィスは、組織としての一体感を醸成し、成長を後押しすることになるだろうと当社は確信している。

また、従業員がどこで、どうやって、いつ働くかを「チョイス&コントロール」できるような自律性を持つことで、組織やチームが直面する課題を解決する環境を構築することにもつながると考える。仕事をスムーズにこなし、成果を上げるためには、働く「場」を通してリアルとネットを使いこなしながら時間を効率よく利用して仕事を回す。その場所が、オフィスで、自宅で、第3の場所で、移動中でと日々状況によって変化していくことになる。

オフィスの段階的再開のための枠組み

当社は、従業員をオフィスに戻すために目標別に段階的ステップを設定し、明確で透明性の高い社内コミュニケーションの徹底を試みた。その枠組みのベースにあるものは、脳科学的視点に立った戦略策定、つまり、オフィス勤務復帰をした際に従業員はどう感じ、そこに何を期待するかを見極めることである。それがハイブリッドワークへのスムーズな移行や強化にもつながっていくものと考える。

今後数ヶ月に新たに設置されるレイアウトやセッティングの画像がLINCカフェをはじめとするさまざまなエリアに掲示される。

多くの企業にとって、この移行期間はオフィスを再構築する絶好の機会となります。

ドナ・フリン、グローバル人材担当副社長、Steelcase

当社は、この枠組みをオフィス再開戦略の基本とし、結成された担当チームによって国や地域の状況に合わせながらグローバルに展開している。以下は、米ミシガン州グランドラピッズ本社で実施した段階的オフィス再開へのアプローチ方法である:

「招待」フェーズ

当社のいくつかのオフィスは、2020年5月に健康と安心安全のために再構築され、それ以来、チームの定期的な打ち合わせや一部のオフィス業務が遂行されている。この「招待」フェーズでは、ほとんどの従業員の勤務形態は「在宅勤務」とし、感染率が高い時期にはオフィスを必要とする従業員にはオフィス勤務が許された。例えば、製品を扱うチーム、施設の設計または管理を行うチーム、またはオフィスの方が仕事をこなせると感じる従業員である。

「奨励」フェーズ

従業員のオフィス勤務を呼びかける移行期間として設定されたフェーズ。新たなスペースで同僚とつながり、変化を受容しながら自分自身を適用させていく期間でオフィスでの時間は着実に増えていくことになる。

「要求」フェーズ

新たな勤務形態としてハイブリッドワークに移行し、対面で働くことのメリットを実感しながらオフィスが主要な「場」となる期間。このフェーズでは、新たな習慣やルールづくりが求められ、組織としての一体感や結束力が再構築される。

Designing our return to office JP
Steelcaseでは上記3段階を経てオフィス勤務が増加し、現在のオフィス勤務率はコロナ禍前の86%に達している。

 

絶好の機会

すべての企業にとって、この移行期間は働き方改革への絶好の機会と言える。オフィス再開はコロナ禍前のスペースや企業文化に戻るのか、それともコロナ禍後の新たな未来に向けて飛躍するかの選択である。その選択にあたって考えなければいけないのが、自社の組織でどのような価値観や行動規範を醸成していきたいかということだ。

Steelcaseでは、組織を成功に導く企業風土変革を特定し、スペースやデザイン、ITや人材、コミュニケーションの各部署の枠を超えた組織横断チームを結成し、変化を促すための新たな働き方とスペースづくりを主要な施設で展開している。どうすればコロナ禍以前のオフィスには戻らずに、新たな働き方を促し、そのスペースに人を引きつけることができるのだろうか? 安心安全かつ人を魅了する「場」、仕事が捗る「場」を構築するにはどうすればいいのだろうか?

当社の本社キャンパスでは、オフィス再開にあたり下記の3つのマクロ原則を採用している:

健康+安全第一
従業員の健康と安全を守ることは最優先事項である。 CDC(米疾病管理予防センター)のガイダンスに従い、科学的根拠に基づいた規則を設定し、安心安全な職場環境を構築する。

透明化 + コミュニケーション
当社の調査によると、オフィス再開にあたって多くの人が自律性と柔軟性を望んでいるということだ。ハイブリッドワークが定着する中で、多くの企業は、それがどう機能するかを見定めなければならない。当社では、時間をかけてコロナ禍後の従業員欲求を慎重に判断し、情報を定期的に社内で共有し、いかに浸透させるかに時間を費やした。

体験を通して実感させる
オフィス再開計画に合わせてスペースを設計する際に、従業員体験の最大化を優先事項として掲げた。曖昧な印象や第一印象が良くない場合には、オフィス復帰に抵抗する従業員が多くなることが分かっている。従業員の声が反映されたスペースづくりに期待が集まり、再び同僚や組織とつながることを多くが望んでいる中、ひとりでの仕事、複数との協働を念頭にした多種多彩な空間を提供することは重要ポイントになる。そこでの新たなワークスタイルを体感することで「コミュニティ」としての一体感や結束力が生まれてくるからである(下記にスペース事例を紹介)。

オフィスへの復帰は全員に活力を与えていることは確かである。同僚との再会を喜び、互いの近況に話が弾む。失われた信頼は回復し、通路での偶然の出会いがオフィスに豊かさを加えている。インターンや新入社員は、期待と不安を抱えながらも組織の中でハイブリッドという新たな働き方を学んでいる。対面であることの意義、それは決して毎日、週40時間、常に一緒の「場」にいるという意味ではない。「オフィス」の存在意義とは、互いに学び合い、耳を傾け、モノを作り、信頼を育て、創造的に問題解決するために集まる「場」であるということである。活気に満ち、人間味溢れる「場」、それこそが未来のオフィスの姿である。


行動変容を促す触媒としての「スペース」

当社の本社キャンパスは、最新の調査結果と新たな設計基準(個+チーム、固定から流動へ、オープン+プライバシー、ネット+リアル)をベースに再構築されている。改装されたスペースは、対面とビデオ通話両方でつながりながら、今までよりどう豊かに働けるかが慎重に検討されている。

本社キャンパス全体に散りばめられた多彩な高機能スペースでは、コラボレーション、交流、集中、学習などさまざまなワークモードに応じてどこでどう働くかを「チョイス&コントロール」できる環境を創出している。

本社キャンパス全体に散りばめられた多彩な高機能スペースでは、コラボレーション、交流、集中、学習などさまざまなワークモードに応じてどこでどう働くかを「チョイス&コントロール」できる環境を創出している。

本社キャンパス全体に散りばめられた多彩な高機能スペースでは、コラボレーション、交流、集中、学習などさまざまなワークモードに応じてどこでどう働くかを「チョイス&コントロール」できる環境を創出している。

本社キャンパス全体に散りばめられた多彩な高機能スペースでは、コラボレーション、交流、集中、学習などさまざまなワークモードに応じてどこでどう働くかを「チョイス&コントロール」できる環境を創出している。

当社のラーニング + イノベーションセンター(LINC)内に新たに設置された「ソーシャルハブ」は、その変革のひとつである。社内カフェテリアでありつつ、従業員のソーシャル活動やオープンな中でのコラボレーションをサポートするように設計されている。人を引きつける空間は、その空間の入り口から奥へと引き込まれるような雰囲気があるものである。ハイブリッドコラボレーションを念頭にしたスペースには、プライバシーや集中ワーク、テクノロジーなどの多くの選択肢を提供し、リモートでは起こり得ない偶発的な出会いを起こす仕掛けとしてのリラックススペース、オープンスペースは可動式家具でユーザー自らが自在に家具を動かしながら用途に合わせてスペースを構成できるように工夫されている。

新たに設置されたスペースについては、今後数ヶ月にわたって、関連ストーリーの情報共有を展開する予定である。

ハイブリッドワークモデルとして設置された実験的スペースでは、新たなテクノロジーとともに人々の行動がどう変容するかを観察していく。
これらのスペースには、カメラ、マイク、スピーカーが一体となった最新型会議用カメラ、Meeting Owl Pro(ミーティング・オウル・プロ)などの新製品も設置され、スペースでの生のユーザーの声を共有するためのQRコードも設置されている。

新スタイルの社内コミュニケーション

新スペースには、いくつかの仮説を検証するために多種多様な相互交流のための仕掛けが組み込まれている。行動変容の実態と最も効果的な方法を把握するには、この実験と検証というプロセスが不可欠になる。ハイブリッドコラボレーションを成功に導くために新たなテクノロジーを完備した実験的スペースを設置し、その使用感をQRコードでフィードバックできるような仕組みづくりである。こうした仕組みをつくることでリアルな声を反映した真に機能するスペースづくりが可能になっていく。

また、過去の経験から食事とフィットネスサービスの提供が極めて重要な要素であることも分かった。当社では、従業員の健康維持、さらには1日を通してどこでどう食事を取るかの「チョイス&コントロール」を与えるために、社外のケイタリングサービス会社と提携し、栄養バランスが考えられたフードやドリンクをオフィス内で提供している。

「チャット・ウイズ・リーダー」シリーズでは、Steelcaseの経営幹部とコーヒーを飲みながら、軽食を食べながらのざっくばらんな対話の機会を与えている。

「コミュニティ」としての結束力強化

コロナ禍での人と人のつながりの希薄化が叫ばれる中、当社の調査でも同僚や組織と再びつながりたいからオフィス復帰を願う声が多い。そこで当社が今後の本格的なオフィス再開に向けて検討しているのが「再びつながる活動」である。「バイオスウェイル(植物を植えて雨水を溜める場所)」でのバーベキュー、従業員バンドによるパフォーマンスなどのコミュニティイベントの開催なども検討されている。また、経営幹部とのカジュアルな対話を望む声も多いため、従業員が上級管理職とコーヒーや軽食を楽しみながら、階層を超えての対話の「場」となる「チャット・ウイズ・リーダー」シリーズなども開催している。


Donna Flynn standing over a wood wallドナ・フリン(Donna Flynn)は、Steelcase グローバル人材担当副社長。企業の成長の鍵を握る世界中に広がるSteelcaseの従業員を引きつけ、育て、定着させるための人材マネジメントの仕組みづくりを主導している。2011年にSteelcaseに入社、2020年3月から現職に就く。

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