オフィス再始動の課題とそのヒント
テレワークで消えた活気あるコラボレーションや交流からアイデア溢れる環境をつくる
コロナ禍の長期にわたる在宅勤務で不安や孤立感を感じる人、リモートでの円滑なコラボレーションの難しさを感じる人が多くなっている。世界中で何百万人もの労働者が孤独と孤立に苛まれ、心身共のウェルビーイングや仕事への意欲、生産性を維持させることに苦労しているという。
調査結果を見れば、オフィスへの復帰を望み、以前のように同僚と共に一体感を感じながら仕事をするのを待ちきれない人も多い。企業は、オフィス再開にあたって安全・安心なオフィスづくりに向けてあらゆる予防策を講じている。しかし、これらの予防措置がむしろ自宅で仕事をするよりもワクワク感もないみすぼらしい姿であったらどうだろうか。そこに果たしてオフィスに出社する意義や意味はあるのだろうか。
Steelcaseのワークプレイスイノベーション+ブランドマネジメントの担当副社長であるゲイル・モートレーは、その自らの体験からこう語る。「昨年の夏に何人かがオフィスに戻り、さまざまな安全対策を施し、安全・安心のための行動指針を設定しました。しかし、そのオフィスの様相はみすぼらしいものでした。かつての賑やかさやたくさんの人が動きながら生まれるエネルギーは消えていました。そうするとどうでしょう。徐々に自宅で仕事をする人が多くなっていったのです。」
「私たちは空間を全く違う視点で捉えます。空間、食、テクノロジーをバランスよく融合し、シームレスでストレスのない極上のユーザー体験の創造を目指しています。」
アンソニー・ガーギロスCompass Group上級副社長
最初のステップ:「ソーシャル・ハブ」を創る
企業の50%以上が、今年のオフィス完全再開を目指して新たなスペースの実験運用を計画している。企業の社内カフェテリアは、まさにその実験をするのに最適なスペースである。カフェテリアは、もちろん食事をすることがメインになるが、企業によっては個人ワークや少人数での会議の場所として使用されることもある。しかし、空いている時間も多く、広い割に十分に活用されていないスペースとして問題視されていた。そこで提案するのがカフェテリアを食の提供だけでなく、社員を刺激し、偶発的な出会いを仕掛け、コラボレーションを活性化させる高性能でダイナミックな「ソーシャル・ハブ」として機能させることである。
Steelcaseは現在、ミシガン州グランドラピッズ市に構えるラーニング&イノベーションセンター(LINC)の中でワークカフェの実験を行っている。コストがかかる躯体的な要素は一切いじらずに、柔軟性と可動性の高い家具をうまく活用することで高性能なスペースへと再設計したもので、用途やニーズに合わせて迅速にスペースを再構成できるという低リスク・高リターンの実験である。
プライバシーレベルが異なるさまざまな柔軟なセッティングで構成された「ソーシャル・ハブ」。そのスペースには組織としての活気を取り戻し、在宅勤務の中で薄れていたコミュニティ意識を復活させる重要なインフラとしての役目を持たせた。そこではコラボレーション、カジュアルな対話や交流、学習、集中ワークなど社員の1日のさまざまな活動が繰り広げられる。オープンレイアウトの中に、モバイル電源やホワイトボード、デジタルコラボレーションデバイスといった可動式コラボレーションツールを組み込むことで、人との距離を保ちながら人と仕事、ツールが自由に移動しながら安全かつ快適に人につながる高機能スペースへと生まれ変わった。このスペースは、継続的なテストと見直し、社員のフィードバックが繰り返されながら今後もアップデートされることになる。
Steelcaseは、フードデリバリーサービスのCompass Group(コンパスグループ)と提携し、「フードをピックアップしに人が移動するのではなく、フードがスペースを移動する」という新たな方法を実験的に自社スペースで試している。Compassのデザインイノベーション&トランスフォメーション担当上級副社長のアンソニー・ガーギロス氏はこう語る。「人々がどこで、いつ、どうやってフードをオーダーするか、どこで、いつ、誰と食べたいかなどの選択肢を増やすことが今後重要になってくると考えています。食体験そのものを自分でコントロールできることが結局は安全・安心につながるのです。」
これらの高性能スペースは、個人とグループ両方のためのセッティングを備えるだけでなく、同僚とつながり、食事を共にしたり、休憩するためのマルチに機能する活気に満ちた刺激的な空間となっている。可動式の間仕切りやカートなどモバイル要素により、チームはニーズに応じてスペースを素早く自らの手で再構成することが可能になる。可動式の大型テクノロジーデバイスはリモートメンバーとのハイブリッドなコラボレーションをサポート。モバイル電源を活用すれば、個人やチームは自由にオフィス中を移動しながら、そして、姿勢を変えながらどこでも仕事ができるようになる。
家具と食の融合
食には栄養素摂取以上の役割がある。食事を共にすることは人間関係やコミュニケーションを育むことにもなり、心の栄養や幸福感など身体と脳の両方に活力を与えることになる。企業はただ単に昼食や軽食を提供するだけでなく、仕事と融合した食体験をつなげることで人間関係の形成にも役立てたい。
Compassは、典型的な社食スペースの代わりに、全体のスペースの中に食体験を融合していくことを提案している。 「今回、当社とSteelcaseの取り組みは、食と家具を融合した非常にパワフルな試みです。どうすればスペースにもっと意味を持たせることができるか?1日のうち3時間しか活用されていなかったスペースを一日中利用できるように有効活用するにはどうすればいいのか?私たちは空間を全く違う視点で捉えています。空間、食、テクノロジーをバランスよく融合し、シームレスでストレスのない極上のユーザー体験の創造を目指しています。」
Compassは、今までにない方法でより多くの選択肢を持つ食体験を提供する仕方を試みている:
- アプリを活用して予約注文と決済が可能。
- ピックアップまたは並ばずに配達場所を指定することができる。
- アプリから事前にセットアイテムを注文し、オフィスの指定場所に配達してもらう。「スキャンアンドゴー」というバーコード決済で非接触かつストレスレスな体験を実現する。
- フロア全体で終日軽食やドリンクを提供する。
「より豊かに働く」体験を生み出す
コロナ禍の間、企業がまずは重点を置いたのが安全対策である。それは必要不可欠としても、それによってオフィスからは活気や活力が消えた。「ソーシャル・ハブの実現で、社員に不安や居心地の悪さを感じさせるのではなく、心地よく働ける選択肢を与えること、それが安心感につながることを確信しました。在宅勤務のような自律性と柔軟性を持たせながら、真に仕事の成果を高める家具やツール、フードやドリンクを提供し、必要な人につながる安全かつ人を魅了するスペースの創造です。上質で魅力ある空間と一杯の美味しいコーヒーがあれば申し分ないのです。」とモートレー氏は締めくくった。