BMWグループはどうイノベーションを推進したか
世界の高級車市場のトップを制すメーカーとして、BMWグループを成功に導いたのは「創造性」である。創立100周年を迎えた企業は数々の画期的イノベーションを達成してきた歴史をもつ。
世界の高級車市場のトップを制すメーカーとして、BMWグループを成功に導いたのは「創造性」である。創立100周年を迎えた企業は数々の画期的イノベーションを達成してきた歴史をもつ。
しかし、今や変化の波が業界を席巻している中、BMWではかつ てないほど急速な技術革新が緊急課題となっている。例えば、自動運転が潮流となる中、今後10年の変化は過去30年の変化以上だと予想している。運転者のいない自動運転の現実は、新規顧客の習慣や期待や世界レベルの市場変化、ハイテク企業などの新参者が一斉に市場を侵略しようとしている事実を謙虚に受け入れることなのだ。
BMWは、イノベーションへのプロセスをより体系的なアプローチとして捉えることが重要だと認識し、その取り組みの際には職場環境が重要な役割を果たすと考えた。
本社があるミュンヘン近郊にあるBMW Innovationswerk は、イノベーションと新テクノロジーを斬新な方法で生み出していく新施設である。この施設設計にあたり、建築設計事務所であるDiePlanstelle、Steelcase、IDEOの3社が協力し、車の未来を探求するクロスファンクショナルチームのためのスペースを構築した。ここでは、創造型ワークに欠かせない集中、コラボレーション、交流、休息といった多様なワークモードが最適にサポートされている。
「私たちは、ユーザー主体のイノベーションを生み出すための特別な場所を創造したかったのです。それが具現化したのがこのスペースです。」と語るのは2013年から2016年までBMW GroupのInnovationswerkプロジェクトを率いたSebastian Schelper 氏である。
人間重視の「場」
Schelper 氏によると、Innovationswerkには流動的思考を強化するために、直角上の壁は存在しない。そして、木製の壁など自然素材がコンクリートドアなどの工業素材と見事に調和し、家具は空間にカラーと質感を加えるように慎重にチョイスされている。設計において最も重要視された点は、職場中に創造プロセスを組み込むように空間全体を包括的に設計するということだった。 まさに人間重視の「場」の実現である。では何故、それがうまく機能したのだろうか。
まずは、施設の中心にあるのが、3つの広い個室タイプのチームルームだ。このスペースは数ヶ月から1年以上にも渡ってプロジェクトを遂行するチームのためのワークスペースになる。巨大な統合型ボードは、写真、メモ、スケッチ、アイデアなどの持続的な可視化を可能にしている。これらはユーザー行動の観察段階で得られた莫大な情報とアイデアを具現化するものだ。ボード類は、チームが仕事を可視化し、没頭できるツールとしても、双方向のコミュニケーションキャンバスとしても機能し、豊かな情報をベースに実行可能な方法を皆で模索できる環境を創出している。
近くにある比較的狭い “tinker lab” では、チームがコンセプトを素早く試作し、ビデオ会議を利用しながら意見を交換し、スピード感を持ってプロジェクトが進められるスペースを提供している。
「私たちは、ユーザー主体のイノベーションを生み出すための特
Sebastian SchelperHead of Innovationswerk project, BMW
別な場所を創造したかったのです。それが具現化したのがこのス
ペースです。
「個」と「グループ」をサポート
チームルームのすぐ外側には、広めのオープンエリアがあり、少人数のグループに分かれて、特定の問題を集中的に話し合うスペースが配置されている。また、チーム全体の仕事が拡大している場合には、チーム全員がこのスペースを集中可能な二次的スペースとして、また、気分や視点を変えるための補完的スペースとしても使用することができる。ここでは車のプロトタイプを試す部屋が多くあり、スペース内で車を走らせることも可能となる。
創造プロセスにとっても重要な空間が、近隣の林や田舎の景観を喚起するような狭い瞑想室です。「 非常に多くの情報に囲まれると、自分がそれに対応できない時があります。そのときには休憩したり、熟考したり、瞑想したりするためにこの部屋が使われます。 ここでは昼寝をすることもできます。それは働く人のニーズをサポートする多種多彩なスペースの一つです。」とSchelper氏は言う。
創造プロセスにとっても重要な空間が、近隣の林や田舎の景観を喚起するような狭い瞑想室です。「 非常に多くの情報に囲まれると、自分がそれに対応できない時があります。そのときには休憩したり、熟考したり、瞑想したりするためにこの部屋が使われます。 ここでは昼寝をすることもできます。それは働く人のニーズをサポートする多種多彩なスペースの一つです。」とSchelper氏は言う。エントランスの近くにはオープンキッチンとラウンジエリアがあり、BMWミュンヘンにいる同僚はここをカジュアルに交流できるドロップインワークスペースとして使用することもある。こう見るとこの施設は、マグネットのように人を惹きつけ、偶発的出会いをつくり、予想もしなかったような知識や視点につながる「場」になっているとSchelper 氏は語る。
Innovationswerkに設置された各スペースは、それぞれが相互に隣接し、包括的な「場」として創造型ワークをサポートしている。スペース同士が離れすぎても、結局、活用されず、その結果、創造型ワークの重要な面がサポートされずに終わることになる。創造型ワークを育成するということは、複数の思考モードやニーズを同時にサポートすることを意味している。
「私がこのプロジェクトから学んだ重要なことは、創造性とは問題への分析的考察、そして、閃きと直感とのコンビネーションで、それが可能なスペースを創出することが成功への道だと思います。」とSchelper 氏は結論づけている。