コロナ禍の長期にわたる在宅勤務によって、仕事への価値観や働き方、オフィスの役割など今までにない多くの気づきを従業員にもたらしました。会社やオフィス環境に対する欲求も高まっています。その欲求はコロナ禍前からもあったものの在宅勤務を経験したことでそれが一層顕在化しました。
今回の調査結果によって分かったことは、下記の5つの従業員欲求がこれからの働き方を変えるだろうということです。これらの多くはコロナ禍以前から特定されていましたが、長期化する在宅勤務でその重要性が再認識されたことになります。
5つの従業員欲求:
安全・安心
オフィス勤務復帰に際して、従業員が快適に集中して仕事に従事するためには、安全であると同時にその対策で安心感を感じることが肝心です。世界中がウイルス感染防止に重きを置く中で、厳格な安全衛生対策を講じることを企業は最大の重要事項として掲げています。
「私は、オフィス勤務への復帰を選択しようとしています。日によっては人も多く、必ずしも全員が規定に従わない場合もあります。人が増えれば、感染リスクが上がり、距離が近づくことで不安になる自分がいます。」
ある被験者の声
室内空気質、安全プロトコルの順守、および施設の清掃・衛生は、安全対策の最も重要な項目です。従業員は、企業が最大限の対策を講じ、同僚も同じ意識でいることでオフィスが安全であると確信でき、安心して仕事に専念できると考えています。
優先される健康・安全対策
オフィス勤務復帰に際して、快適に仕事に専念できる理由として8つの選択肢の中から当てはまる項目を選んでもらうと同時にその優先度の評価も求めた。
室内空気質、安全プロトコルの順守、および施設の清掃・衛生は、ほぼすべての国が最も重要な安全対策として挙げている。
帰属意識
人間には、社会的つながりや集団に属したいという基本的欲求があります。これは人間の遺伝子に組み込まれた人間本来の欲求です。コロナ禍によって、在宅勤務を余儀なくされ、孤立化問題が浮上する中で改めて他人や社会と関わりたい、組織というコミュニティの一員であると感じたいといった欲求がこれまで以上に重要になってきました。
調査対象国のどの国でも、オフィス勤務復帰を望む最大の理由として仲間とのつながりや目的意識を挙げています。
調査の中では、目的、帰属意識、レジリアンス(再起力)、信頼、インクルージョン(全従業員が対等に仕事に参画)という指標を使ってコミュニティとしての一体感を測定し、それがオフィス環境とどのような相関関係があるかを探っています。コミュニティ意識は、従業員のウェルビーイングに貢献するだけでなく、業績の向上にもつながるものです。組織やチームというコミュニティの一員であると感じられることが生産性ややる気、イノベーション、会社への愛着心や忠誠心という項目で評価が高い傾向にあります。
仲間と近くにいられない状態でこのコミュニティ意識を培うには多くの努力を伴い、在宅勤務が多くなればなるほど困難になります。在宅勤務が多い人の方がコミュニティ意識への評価が低いこと、また逆もまた然りで在宅勤務が少ない人ほど、コミュニティ意識が高くなることが分かっています。
「私の楽しみは、同僚グループとランチをすることです。先輩社員の存在は大きく、声をかけてコーヒー片手にカジュアルにおしゃべりができるリアルな環境がとても大切でした。ズームのコーヒーチャットではなかなかそれは上手くいきません。」
ある被験者の声
オフィスは、このコミュニティ意識を育むように設計することができ、全ての調査対象国において、オフィス空間でその効果を生み出すには下記の3点を考慮することが重要だと特定されています。
- 経営幹部といつでもつながるスペースがある。
- 交流を促し、帰属意識構築に役立つスペースがある。
- アイデアの生成や創造的な問題解決につながる発想豊かで感性を刺激するスペースがある。
オフィス勤務復帰を望む5つの理由
オフィス勤務復帰を望む理由の上位5つをランク付けしました。
生産性
人は自分の仕事が有意義である、価値があると感じたいと思っています。コロナ危機によって企業を取り巻くビジネス環境が劇的に変化する中、この仕事の意義を実感したいという思いはますます増幅しました。
コロナ禍以前は、集中的に仕事をするためのプライバシーがないという不満を抱いていた人も多くいました。現在、チーム活動やコラボレーションだけのためにオフィスに出社すべきだという意見も多々ありますが、調査データでは、企業リーダーも従業員もコラボレーションのためだけでなく、ひとりでの集中ワークのための場所としてのオフィスを望む声が多いことが分かっています。
「リモートでの作業は未だ困難を伴います。同僚とのスムーズなコミュニケーションはリアルな場に勝るものはありません。表情や身振り手振りなど言語以外の手がかりで相手の意図をより深く読みとることができるからです。リモートは未だただ単に表面的に会話をしているような感じがします。」
ある被験者の声
イノベーションに向けての創造ワークや複雑な問題解決には、「個」と「チーム」の両ワークを交互に遂行することが必須です。つまり、オフィスにはこうした異なるワークを即座に容易に切り替える両タイプのスペースが求められるのです。
特に従業員は、集中ワークを遂行するための場所としてのオフィスを強く望んでいます。その理由は、自宅の住環境の質が問題で人間工学を考慮した高性能なチェアやデスクが自宅には欠如しているためです。
今後のオフィスに従業員が最も望むコト
オフィス勤務復帰の際、従業員が最も重要だと思う5つのコトをランク付けしました。
注目ポイント:フランスとスペインだけが「集中」がトップ5に入らなかった。どの国よりも在宅勤務中に孤立感を感じた人が多かったスペインと厳しいロックダウンを導入したフランスは、両国ともに人とのつながりを最重要項目として評価している。
オフィス勤務復帰の際、従業員が最も重要だと思う5つのコトをランク付けしました。
快適さ
仕事をする際の快適さや従業員のウェルビーイングは、身体面だけではなく、認知面及び情緒面が深く関与していることが認識され始め、今後のオフィス変革の中でさらに重要項目として位置づけられることが求められています。
よりリラックスしたくつろげる空間や自分の嗜好に合った空間をオフィスに組み入れることでまるで自宅にでもいるような心地よさをもたらします。
在宅勤務に嫌気がさしている人、自宅のソファやキッチンカウンター、リビングテーブルやベッドで身体の痛みや不調を感じながら仕事をしている人は、自宅のくつろぎ感と心地よさといったものも包括的に考慮したこれからのオフィスデザインに期待を抱いています。
「最初は在宅勤務は一過性のものだと考えていました。簡易的な折り畳み式テーブルの使用もそれが長期化すると背中の痛みが悪化しました。カウンターチェアで前屈みでの作業が続くともう耐えられません。」
ある被験者の声
身体面から言うと、人間工学が配慮されていないチェアに長時間座り続けることから起こる身体の痛みや不調。これは、ほとんどの国で在宅ワークでの生産性や集中力の低下につながった最大の懸念事項でした。また、生活音などの邪魔や育児、介護などの世話、ネットワーク環境やテクノロジー/ツールの欠如などの問題もそのひとつでした。
認知面では、10か国中9か国で、オフィス勤務復帰を望む理由として「静かで仕事に没頭できるプロフェッショナルな環境」が上位5つの中にランクインしました。在宅勤務の場合、さまざまな生活音、視覚的な邪魔、家事や育児など人の世話に悩まされることなどがその理由です。
情緒面では、チームへの帰属意識、組織文化とのつながり、そして、同僚とのつながりが上位に挙げられました。ドイツ、フランス、スペイン、中国は、人同士の交流が最も高く、これは厳しいロックダウンで社会的隔離措置がとられたことが原因と思われます。
在宅勤務で生産性を低下させる原因
在宅勤務中に生産性を低下させる原因を3つ選択するように求めた。
コントロール
在宅勤務で一日中家で過ごすのはもちろん良くない一方で、多くの人はオフィスにいるよりも在宅の方が自分の時間を自由に管理できると感じています。デスクで、ソファで、外でと働く場所の選択肢を選べる自由度があります。また、1日の中で運動、家族や友人、ペットとの時間を組み入れたりすることでプライベートな時間も増え、仕事にも好影響を及ぼします。
通勤がないことに加え、多くが在宅勤務を高く評価している点は、その「柔軟性」です。これによってワークライフバランスと自律性のレベルはさらに向上します。
今後、多くの人がどこでどう働くかなどを自由に選択できる在宅と同じレベルの柔軟性をオフィスにも求めるようになるでしょう。
企業もようやく、従業員がどこでどう働くかを選択したいという従業員の欲求に耳を傾け始めています。世界中の企業リーダーの87%は、コロナ禍後には従業員が在宅勤務やオフィス以外の第3の場所で働ける選択肢ができる体制を整備することを検討しています。この割合は2020年4月から9月にかけて38%増加し、時間の経過とともにその導入に向けての取り組みや整備が加速しています。
「画一的な空間の中にいると耐えきれなくなってしまいます。それも1日8時間から9時間、週5日続くと本当に憂鬱になります。できればひざの上に犬を乗せてお気に入りのソファに座って窓の外の景色を眺めながら仕事をしたいものです。」
ある被験者の声
また、働く場所以外に、住環境にある多彩な空間や家具(ソファ、デスク、テーブル、屋外など)をオフィスにも配置してほしいという要望があることも明らかになっています。特に中国とメキシコは、一日中デスクにチェアという画一的な家具ではなく、それに代わる家具や空間を望む声もあります。
コロナ禍以前にアメリカで実施された他の調査では、自分のデスク周りを自分でコントロールできることを望んでいる人が多いことが報告されています。自席を持つ3分の2の人は、就労時間の70%を自席で過ごしていますが、できれば上下昇降デスクや移動しながらさまざまな姿勢で仕事ができる環境を欲しています。
さらに別の調査では、54%の人が家具を自分で動かし、レイアウトを再構成したいと望んでいますが、実際にそれができる環境にいるのはわずか38%だけです。これは身体的、認知的、情緒的側面での快適さをももたらします。脳科学的観点からも身体運動が創造力や学習効果に好影響を与えることが実証されています。
在宅勤務の経験
からより多くの
コントロールを望む
すべての国で、在宅勤務のメリットとして評価しているのは自律性とワークライフバランスです。将来的には、どこでどう働くかを選択でき、より多くのコントロールができることを多くの人が望んでいます。下図はこれらの要素がある程度または大幅に改善したと回答した人の割合です。
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