「集う」ためのオフィス:共有スペースの未来

所要時間 16分

当ストーリーは、Steelcaseの最新冊子、「来るべき時代へ舵を切る:ポスト・コロナ時代のオフィス」の関連記事です。

オフィス勤務に戻りたいと思う人が少なくないのは何故だろう? しかし、そのオフィスで今まで通りに仕事を楽しめるのだろうか?

カフェで同僚とコーヒーを飲みながらのおしゃべり、コラボレーションエリアでの付箋やホワイトボード、デジタルディスプレイを使っての活発な情報交換やアイデア出し。人が目的意識を持って集う「場」にはエネルギーが満ち溢れている。

一部の業務は、リモートからネットを介して問題なく遂行できるかもしれない。しかし、今までにないアイデアをゼロから生み出したり、複雑な問題を解決したりというような創造性を伴う作業はリモートでは難しいことも多い。創造性や俊敏性、イノベーションを促すよう意図的に設計された「場」は、組織としての生産性を高め、企業の成長を後押しする。そして、何よりリアルな「場」で対面しながら一緒に仲間と仕事をしたいと感じた人も多かったはずである。

社会的つながりが信頼を築き、絆を強固にするのは明らかである。テレワークでも対応できるのは、偶然の出会いやカジュアルな会話から長年に渡って構築されてきた関係がそのベースにあるからだ。カジュアルに対話をし、コラボレーションし、エネルギーを得ながら業務を前進させていった共有の「場」があったからこそである。

職場に復帰した際、その安全性を重視するがゆえにこれらの共有スペースは、消滅していくのか? それともさらに進化していくのだろうか?

オフィス再開までの数ヶ月、従業員はバラバラになりながらどう感じていたか。職場に戻りたいと感じた主な理由として挙げられたのが、仲間と一緒にいたい、リモートでは仕事が捗らないといった意見である。こうした声を考えると、従業員の欲求やニーズに応える多種多様なスペースがオフィスから消え去ることはないだろうと考える。むしろ、そのニーズは増すだろうとも予測されている。但し、ポスト・コロナ時代のオフィスは、以前とはその様相もニーズも異なるため、段階的にオフィスの再構築を進める必要がある。

交流やコラボレーションのためにオフィスに集うこと、それこそがこれからのオフィスが存在する最大の目的になるだろう。

その目的のための共有スペースとはどんなものだろう。温かみと人のエネルギーが満ち溢れ、住環境にあるような感性をくすぐる心地よい空間である。それが結果として成果につながっていく。ソファのようなリラックスできる家具、自然を思わせる素材、細工が施されたディテールデザインなどその要素の全てを、新たに浮上した「安心・安全」上の課題と照らし合わせながら見直していかなければならない。これからの共有スペースは、適切な対人距離と消毒などの安全ガイドラインを遵守し、オフィスの中でもその中軸的な役割を果たすことが期待される。従業員の健康と心理的安心感を確保すること、それと同時に仕事を楽しみながら遂行できる環境づくりである。

当社では、企業の競争力向上と安全性という要素をバランスよく考慮したスペース提案に努めています。

安全に人同士が交流できるという心理的安心感だけでなく、安全確保のための適切な対人距離とその環境を整備しなければならない。同時に、従来以上の機能を高めた共有スペースの再構築も必要になる。下記は、効果を生み出すスペース再構築のために、当社が展開している設計戦略の一部である。

パフォーマンス重視の原則

コロナ以前、当社は、一連の研究調査から導かれたパフォーマンス重視の設計原則をベースに、心地よく仕事がこなせる共有スペースを提案していた。そして、ポスト・コロナの世界でも、この基本原則は変えずに、新たに浮上した安全性対策として「密集度」、「規則性」、「分割」という3つの新指針をそれに追加した。

illustration for proximity

近接性

近接性と密集度は密接に関係している。人をつなげることを目的とした共有スペースを設計する際には、いくつかの課題がある。「人と人」の間の適切な距離、オープンスペースでミーティングする際、プライバシーとリモートからの参加者も考慮した「人とテクノロジー/ツール」の近接関係、そして、「人と家具」の距離である。こうした近接性と密集度との関係を新たな視点から検討すべきである。

illustration for privacy

プライバシー

共有スペースでのプライバシーを、音響、視覚、情報、区域の4つの側面から計画すること。それが心理的安心感と快適性をもたらす。プライバシーの確保は、人々が安心して、溢れるアイデアを互いに共有し、仕事の見える化にも貢献していく。その中でも区域的プライバシーは、安全性の面からもその重要性はさらに増していくと思われる。スペースを区切るパネルなどのパーティションは、周囲との適切な対人距離や飛沫防止だけでなく、人の流れを誘導するという意味でも活躍するアイテムだ。

illustration for Posture

姿勢

仕事中に様々な姿勢(座る、高く座る、くつろぐ、腰掛ける、立つ)をとれることで、生産的に仕事ができるだけでなく、健康やウェルビーイングの向上をも促す。様々なチェアを配置することで、対人距離の増減にも柔軟に対応でき、必要に応じて家具の配置変更も容易である。

illustration for Personality

個性

共有スペースは、企業ブランドやイメージ、企業風土を表現するツールとしてデザインが重視される傾向がある。企業理念やビジョンの共有は、従業員の意識向上や優秀な人材獲得にもつながっていくからである。しかし、これからは身体が触れる面を介したウイルス感染についても注視し、住環境によくある家具の張り地や仕上げの消毒も検討すべきである。

ウェルビーイング

共有スペースは、その設計の仕方で従業員ウェルビーイングを改善したり、意欲的に仕事に没頭できたりという意味でその役割は大きい。姿勢を変えながら健康的かつ活発にコラボレーションをする、リラックスした中で対話をすることで身体や心のストレスも軽減できるという。観葉植物を一面に這わせた壁、自然素材や自然界にあるカタチや色を取り入れるバイオフィリックデザインを採用することも解決策のひとつである。空気清浄効果もあると言われる植物は、心身ともに癒される効果で従業員の健康や幸福度にも大きく貢献する。また、コロナ渦においては、屋外が安全であることと、屋外で新鮮な空気に触れるなど、自然環境が人間にもたらす影響は計り知れないことは、すでに多くの研究で実証されている。屋外スペースを人の交流やコラボレーションエリアとして機能させることで、より安全かつ健康的な仕事環境を創造できることも覚えておこう。

今後、企業の重要な課題は、イノベーションを起こし、競争力を高めていくことである。そのために、オフィスを重要な戦略ツールとして位置づける先端企業も多い。オフィスというリアルな「場」で、安全に人とアイデアが交わることで初めてイノベーションは加速していくからである。その際に念頭に置くべきことは、従業員が「安心・安全」にオフィス業務ができること、身体的、認知的、情緒的ウェルビーイングをサポートすること、従業員が出社しなければならないオフィスから出社したいと思える「場」にすることである。仲間とつながりたいという人間の本能的欲求、組織としての目的や価値観の共有、帰属意識などを満たす「場」、そして、何よりも誰もがそこで働きたいと思える「場」、それがこれからのオフィスの目指す場所なのである。

設計上の課題

ポスト・コロナの世界で、より安全な仕事環境を構築する上での新たな課題を調査したところ、「物理的距離」、「動線」、「空間環境」という主に3つの設計上の課題が明らかになった。物理的距離と密集度、従来の空間環境内の動線とのそれぞれの関係性をまずはしっかりと整理し理解することが「安心・安全」かつ機能する共有スペースづくりの鍵になる。

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物理的距離

静的及び動的な環境では、周囲2メートルの対人距離を確保することを念頭に置こう。そのためには、共有スペースでどう人同士が交流し、オフィス内をどう移動すべきかを常に意識する必要がある。家具は、周囲との対人距離を保つよう配置されることはもちろんのことである。

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動線

誰もが利用できる通路と近隣部署の通路というオフィス内の動線を、交通の流れに置き換えて考えてみよう。そして、移動する際には、周囲との対人距離を意識しよう。共有スペースの周囲の通路は、適切な幅の確保、視覚的誘導ステッカー、間仕切りの追加等で安全な動線を確保することが重要である。

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空間環境

オフィスによってもちろん様相は異なる。物理的距離と動線を考慮しながら共有スペースを再構成または設計するには、まずはそれぞれの企業の空間環境を理解することだ。例えば、閉鎖された空間で壁や家具が固定、出入り口や換気改善が難しい、または、より柔軟なスペース配置や換気改善が可能なオープンスペースかどうかなどである。スペースの密集度は? 通路はどのぐらい狭いか?オープンスペースの中に通路があるのか? それともドアで独立しているのか? 適切なスペースや間仕切りを提供するためには何が必要なのか等である。


以下では、コロナ前と後での個室タイプの会議室とオープンなカフェスペースの両方での設計上の課題を提示している。

例1 :
個室タイプの会議室:フォーマルな会議

 

コロナ前のレイアウト:

面積:7.6m x 4.2m/32平方メートル

収容人数:10名

空間環境:完全個室の固定壁と入口が、適切な対人距離と安全な動線のためのスペースを制限している(特に何かを生み出す作業の場合など)。

コロナ後のレイアウト1

収容人数:6名

設計上の考慮事項:座席数を減らし、ツールや共有収納キャビネットを撤去することで密集度を下げる。出入りをより安全にするために席からの動線を一方通行にする。飛沫予防対策としてパーティションを追加する。標識や衛生ステーションを設置することで感染拡大予防のため衛生強化に努める。

コロナ後のレイアウト2

収容人数:4名

設計上の考慮事項:座席数を減らし、1つの会議テーブルを個別のテーブルに置き換えて密集度を減らす。入口を中央に配置し、より安全かつ明確な動線にする。立ちながらの活発な生成型コラボレーションでは、席からホワイトボードまでの安全な動線や席の出入りを慎重に計画する。

例2 :
オープンスペース:カフェ

 

コロナ前のレイアウト

面積:7.6m x 7.6m; 58平方メートル

収容人数:20名

空間環境:オープンスペースでの家具配置は、適切な対人距離と安全な動線を確保できるような柔軟性がある。

コロナ後のレイアウト 1

収容人数:10

設計上の考慮事項:座席数を減らし、1人席テーブルに置き換えることで対人距離を確保し、密集度を下げる。各座席への明確な一方通行の動線を設定し、対面を回避できるようにする。飛沫感染防止と心理的安心感を考慮して、パーティションや観葉植物を組み入れる。標識や衛生ステーションを設置したり、利用時間をずらしたりすることで衛生への意識を高める。スペース利用率や空きテーブルを表示できるテクノロジー活用も検討しよう。

コロナ後のレイアウト 2

収容人数:10名

設計上の考慮事項:少人数のグループ用に座席数を減らすことで密集度を下げる。1人席を設け、出入り口周りの一方通行の動線を検討する。

設計上の考慮事項:戦略的キーワード

当社では、これらの設計上の課題を解決するために3つの戦略的キーワードを設定している。

密集度
2メートルの対人距離を確保するために、スペースの利用人数を減らす。

規則性
家具の配置を変更して、距離を最大限に確保し、近い距離での対面着席を回避する。

分割
パーティションや間仕切りを追加し、スペースを区切り、「人」、「スペース」、「動線」の間に仕切りを設ける。

これらの戦略は、「安心・安全」の下に人が集い、コラボレーションし、交流できる共有スペースを設計することを目的として設定されたものである。パフォーマンス重視の原則を基本に、必要に応じて組み合わせて検討されるものである。

新常態のオフィスの共有スペースには、状況に合わせて対人距離を調整できる高レベルの自由度と流動性がなくてはならない。家具は柔軟性に優れ、自立式であること。それによって離したり、くっつけたり、配置で向きを変えたり、パーティションで囲ったり、スペースを区切ったりすることが容易にできるようになる。

共有スペース設計上の追加考慮事項:

オープンスペースを活用する:固定壁で囲まれたスペースではなく、オープンな共有スペースやコラボレーションスペースでは、対人距離や動線に対してより柔軟性を持たせることができるため、設計上の課題に対処しやすくなる。

適切な什器やツールを検討する:既存の共有スペースをより「成果」を生み、「安心・安全」なスペースへと変換する。生成型コラボレーションに欠かせない家具やツール(Steelcase FlexマーカーボードSteelcase Roamモバイルスタンド & Microsoft Surface Hub 2、Steelcase Flex モバイルパワー、消毒用品を収納するSteelcase Flexモバイルカートなど)を備えたオープンな共有スペースを検討しよう。

テクノロジーを活用したウェブ会議:会議室に最先端のビデオ会議テクノロジーを装備する。音響プライバシーを考慮するとオープンな空間より個室が望ましい。

柔軟度の高いスペース設計:1人席、ユニット式、可動性の高い家具などを活用することで、必要に応じてスペースを拡張および縮小できるようにする。

人の通行を再考する(一方通行vs対面通行):方向標識の設置やあえて家具や間仕切りなどを配置して人の行動を誘導する。

屋外スペースの活用:屋外スペースをチームがコラボレーションや仕事スペースとして活用できるように適切な什器やワークツールを屋外に備える。

タッチレステクノロジーの採用:Workplace Advisor(ワークプレイス・アドバイザー)といった製品を導入することで、部屋の検索や予約管理を容易にするほかに、どのスペースが高密度で掃除の頻度を増やすべきかを特定できる。

ソート・スターター

オフィスでのコラボレーション、交流、集中、休息といった日々の活動は、個室やオープン両方で起きている。しかし、密集度、対人距離、動線を考慮した設計上の課題は、この2つでは大きく異なることが分かっている。当社では、「安心・安全」な環境づくり支援を打ち出す中で、まずは、屋内外両方での交流/コラボレーションスペース、オープンな高性能ミーティングスペースの開発に注力している。

コラボレーションとは、情報型、評価型、生成型の3タイプに分類され、対面になりがちなのは生成型である。このことは、下記のソートスターターでも強調されている。逆に情報型と評価型コラボレーションは、ネット上でも効果的に遂行できる。

共有スペース:コモンズ

オープンで拡張性高いソーシャルコモンズ。多様な姿勢を提供しながら、交流やコラボレーション、集中、休息などマルチなワークモードもサポート。座席と通路との間に適切な距離を確保し、パーティションの設置や観葉植物など自然を取り込んだ環境が、心理的な快適さと安心感をもたらす。電源・テクノロジーの利用やひとりでの作業面を提供し、個とコラボレーションの両ワークを可能にしながらスペースの最大化を実現している。

floorplan overhead view

共有スペース:狭いラウンジスペース

狭い2人用スペース。2人での対話や集中、個々のデバイスを利用したコラボレーション作業などに最適。互い違いのレイアウトにより、適切な対人距離を確保し、対面を回避しながら人がつながる環境を創出している。

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共有スペース:柔軟性あるラウンジスペース

何気ない対話やカジュアルなミーティングを念頭にしたインフォーマルスペース。適切な対人距離やシンプルな動線を配慮し、柔軟性を考慮したひとり用チェアとテーブルを配置。共有アイテムは最小限にしている。持ち運び可能な簡易テーブルやモバイル電源でどこでも働くことが可能になり、住環境から着想を得たユニークな要素が温かみのある心地よさをオフィスにもたらしている。

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共有スペース:ラウンジ + タッチダウン

どこでどう働くかのチョイスを提供する多機能スペース。周囲から遮断されたラウンジでは、少人数グループでの対話、個とグループでの両ワークが可能になる。隣接するタッチダウンスペースには、ソファ席の他にプライバシーも考慮された集中ワーク用1人席も設置され、様々な姿勢が取れるよう工夫されている。

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共有スペース:オープンな中での活発なコラボレーション

オープンなチーム用コラボレーションスペース。ブレスト、仕事の見える化、アイデア出しなどを強力にサポート。可動式テーブルを利用することで、対人距離を確保しながら、人員の拡張や縮小に応じて再構成も容易である。また、アイデアの交換や発展に必要不可欠なデジタル、アナログでの情報共有ツールも完備されている。

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共有スペース:オープンなラウンジタイプのコラボレーション

リラックスしたコラボレーションスペース。対人距離を確保しながら最大3人まで収容できるソファ席。電源、テーブル、ハイバックの背面パネルが一体になったソファは、オープンな空間の中でのプライバシーと安全・安心を確保しながら、必要不可欠なツールで効果的にコラボレーションできる環境を提供する。

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共有スペース:コラボレーション・ポッド

容易な組み立て施工でオープン空間に設置できる2人用ワークポッド。1人用ソファと簡易テーブルで適切な対人距離を確保しながら、外部からの遮断とプライバシーを提供し、分散したメンバーとの集中したウェブ会議も容易である。開口型ルーフを備えた標準型換気システムは、外からの空気を入れながらポッド内を適切に換気できる。

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