新・リーダー像:

生物学からの教訓が 企業の俊敏性を育てる

所要時間 29分

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意欲溢れるビジネスリーダーにとって、もしかしたら生物学を学ぶことのほうが、ビジネス論を学ぶよりも有益かもしれない。なぜなら、今日成功している企業の多くの組織は、過去の管理統率型階層組織ではなく、自然生態系のように複雑な適応システムを持つ組織だからだ。

自然生態系は高度なレベルで相互に接続、依存し、生き残るために変化に素早く順応するようにつくられている。生物は環境を察知し、直面する新たな状況に適応しながら予測できない環境を乗り越えている。今日の劇的に変化する経営環境にあって、企業には今までとは異なる方法で問題に対処し、危機的状況にも対応できる適応力や弾力性ある組織や人材が求められる。まさにこの自然生態系から学ぶことが多いのだ。

変革の時代には、多くのリスクや見返りが内在することはよく知られている。それらの落とし穴を回避しながら、いかに成長機会を掴むかが伴になる。しかし、複雑で急速に進化するビジネス環境を意識することと、それをテコにして成功に向けて行動することの間には大きな違いがある。

多くのリーダーたちは俊敏性の高い組織づくりの方法を模索しながらも、生物学的観点から組織を捉え、抜本的な方法で組織を率いることを考えている企業はまだ少ない。ましてや、複雑な適応システムでの触媒のひとつが物理的なワークスペースであることは未だ認知されていない。物理的なワークスペースは、職場での人々の俊敏な行動パターンを形成したり、組織を強化したり、反対に組織の弾力性を弱めたりもする。

Steelcaseは20年以上にも渡って、人々の働き方の変化を調査、研究している。最近では自社の役員スペースを実験台として、リーダーに影響を及ぼす破壊的要素を特定した(P28を参照)。働き方の壁を打ち破るために、プロトタイプ(試作品)をつくってその理論を証明し、働き方や企業の経営方法を抜本的に再考することを試みている。物理的スペースを通して、企業は自然生態系の複雑な適応システムのように経営することができ、企業文化や成果を生む組織の再構築が可能なことを最新研究は実証している。

新たな局面を迎える経営環境

最新のIBM社の世界C-スイート(経営幹部)意識調査では、今日の複雑な経営環境を、次に何が来るのかを予測するのが難しい「破壊の時代」とも表現している。既存の秩序が破壊され、新たな産業が創出される。例えば、テクノロジーの強みを持って台頭するデジタル世界の巨人や、どこからともなくやってきて、市場を再定義するような小さなスタートアップ企業に対して、世界中の企業リーダーたちが脅威を感じているのだ。

今日のリーダーたちは、前任者たちよりもはるかに積極的に、このグローバルに相互依存する環境の中で戦わなければならない。世界のあらゆる地域でのビジネス機会が増えるほど、その地域の法律、言語、慣習、規制や文化といった自国とは異なる複雑な環境に身を置くことになる。

グローバルな従業員エンゲージメント

 34% エンゲージメントが高い
 37% エンゲージメントが低く、必要最低限のことしかしない
 29% エンゲージメントが中間で揺れ動く

このようなビジネスの新たな局面においては、今までにないアイデアやビジネス機会に素早く対応することが求められる。そして、複雑な適応システムの中では、働く人々は俊敏で弾力性を持つことが不可欠にある。相互に交流し、学び、変化に順応する適応力である。しかしながら、そこには大きな障害もある。それは従業員エンゲージメントの低下という深刻な問題である。Steelcaseとグローバル調査会社Ipsos社が2年間に渡って調査した報告書 「世界のエンゲージメントと職場環境実態」では、世界のワーカーの37%のエンゲージメントが低いことが明らかになった。(この調査の詳細www.steelcase.com/globalreportをご覧ください)。

今日のリーダーたちは、グローバルな地域の法律、言語、慣習、規制や文化といった自国とは異なるビジネス環境の中で困難を上手く切り抜けなければならない。

もちろん、その調査報告書には前向きな結論も含まれる。34%のワーカーはエンゲージメントが高く、新たな働き方や働く意義、仕事を上手くこなせる職場環境を求めている。また、エンゲージメントレベルが中間に位置するワーカーは29%にも及び、職場で人々が真に欲していることやそのニーズを的確に把握して前向きに対処することで環境は大きく改善されるものと思われる。

今日のリーダーたちには組織や国境の枠を超えながら、社内外の人間関係を構築し、良好に保持していく能力が求められる。このために必要なのが複数のことを同時にこなしながら、時代にあった経営をしていくというフットワーク力だが、それが精神的なプレッシャーを生みだしている。

上手にすべてをやりくりする能力

今日のリーダーたちを悩ませているのは、従業員エン ゲージメントや先行き不透明な経営環境だけではない。 業績を上げるために克服しなければならない障害物は 挙げればきりがない。リーダーシップについてグローバ ルレベルで調査しているシニアデザイン研究員である Patricia Kammer氏によると、企業のリーダーとそれ以 外の人々の違いは2つあるという。「まずはその影響力 です。彼らの言動は組織や業界全体に影響を与えると いうこと。そして、日々、広範囲に渡る様々な問題に深 く関わらなければならないということです。これらの2つ の現実がリーダーたちに一分一秒も無駄にできないとい うプレッシャーをかけているのです。」

Kammer氏やSteelcaseの研究員やデザイナーたちは、リーダーたちへのインタビューやその行動観察に2年もの歳月を費やして、彼らが抱えている課題や働き方を変えなければならない理由を模索した。そして、判明したことのひとつが彼らの多くが、社員と同様に莫大な情報量の処理に悩んでいるということであった。「情報過多」にどう対処し、情報をふるいにかけ、価値ある情報だけをいかにすくいあげるかということだ。指揮系統である自らの判断で情報を鵜呑みにすることはできない。その道のエキスパート集団のネットワークを社内外に置き、情報を精査するプロセスは不可欠なのだ。そして、極秘条項を扱うことも多いため、透明化と関わり方を慎重にしながら、すべてを上手くやりくりする能力も求められる。

また、リーダーたちは急速に変化する環境の中で成果を要求され、目まぐるしいスケジュールの合間を縫ってでも精神的なリセットを必要としている。仕事のペースは日々加速し、特にグローバルに活躍するリーダーたちのスケジュールは複数のタイムゾーンをまたがるように断片化している。

今日のリーダーたちには組織や国境の枠を超えながら、社内外の人間関係を構築し、良好に保持していく能力が求められる。このために必要なのが複数のことを同時にこなしながら、時代にあった経営をしていくというフットワーク力だが、それが精神的なプレッシャーを生みだしている。「実際のところ、会いたいと言われたすべての人と会うことはたとえ自分が望んだとしても、不可能です。1日の時間は限られているのですから。」と言う役員もいれば、「メールでハイジャックにあうようなものだ」と言う人もいる。

移動やタイムゾーンの行き来、スケジュールのやりくりに費やされる時間は大きな損失につながる。遊牧民のような高度にモバイルな今日のリーダーたちは、いまやどこでも働けるからというが、その理由には説得力がなくなってきている。心身の活力を補給したり、インスピレーションを得たりする時間の代わりに、時間の制限もなく、ひたすら会社のために仕事づけになる日々。彼らにまず必要なのは、仕事をこなす体力と精神的な持久力をつけることである。「自分の中のエネルギー調整がすべてです。肉体、精神、魂を調和させ、人生の目的や意義、やる気をどうやって引き出すかなのです。」と別の幹部は語る。

今日のリーダーたちには組織や国境の枠を超えながら、社 内外の人間関係を構築し、良好に保持していく能力が求め られる。このために必要なのが複数のことを同時にこなし ながら、時代にあった経営をしていくというフットワーク力 だが、それが精神的なプレッシャーを生みだしている。

もうひとつの問題は「人」との交流の欠如である。それは必ずしも社員だけではなく、他の幹部グループとの交流も含まれる。相互に交流する機会がなければ、より広い視点や組織としての知を結集させることはできない。幹部チームの意見の食い違いが組織を危険にさらすことさえもあるのだ。

個室という障壁

リーダーたちを取り巻く多くのものが大きな変化を遂げている中、代わり映えしないのが彼ら自身のワークスペースである。Steelcaseの最新のグローバルレポート (世
界のエンゲージメントと職場環境実態)
; によると、社員の23%と比較して、58%の幹部は未だ個室で働いている。この数字は驚くべきではないが、今日のリーダーたちが物理的スペースを変革の触媒として検討しているという動きとは異なる事実である。

世界中の企業のリーダーたちが語る「今、職場で起きている変化」とは。

未だ、秘書がガードを固める役員室が並び、役員用ダイニングルームを備えたフロアで役員同士が話をする環境では、組織で何が起こっているかを把握することは難しい。社員は忙しい役員の邪魔になることを避け、大抵は豪華な役員フロアは無言の圧力で社員が出入りをしにくい雰囲気を醸し出している。

役員室は未だ一般的といいつつも、経営者たちは組織の現状を知っているのは社員であり、現場で何が起こっているかを把握するために、社員がいる場に足を運ぶ経営者も多い。これを実践するために、ある経営者は自分の部屋の壁を透明なガラスにし、社内の風通しを良くした。「私は出来るだけ多くの人と仕事をしている姿を社員に見せたいのです。」と説明した。

企業リーダーの執務環境

58% 役員の個室率
23% 社員の個室率
Steelcaseのグローバルレポートによると、企業リーダーの多くが個室で働いている:役員の58%が個室で働いているのに対して、社員の個室率は23%である。

Steelcaseのグローバルレポートによると、企業リーダーの多くが個室で働いている:役員の58%が個室で働いているのに対して、社員の個室率は23%である。

「昔、役員室は成果に対する報酬として見なされ、社会的ステータスと階層を表す上で重要な役割を担っていました。しかし、現在、そして、今後、物理的スペースは忙しい仕事をこなすためのツールとして、最大限の成果を出すことに貢献するものとして位置づけられていくでしょう。」とKammer氏は語る。

環境を育む

刻々と変化する経営環境で、多くの経営者たちはいかに強固な組織をつくり、集団として率いていくかを再考している。ビジネスを自然生態系のような複雑な適応システムとして捉えることで、弾力性の高い組織をつくり、予測不可能な状況の真只中でも繁栄しつづける土台を構築できる。これは今までとは根本的に異なる手法で、人材などの経営資源をどう効果的に活用するかの考察にもつながる。

この適応システムによる過激ともいえる変化は、意思決定プロセスが今までのように中央集権や階層型ではなく、分散化するということだ。この状況では、人々は指揮命令系統での指示を待ち、融通の効かないシステムの一部として動くのではない。急激な環境の変化の中でも的確に対応するために、顧客への対応も迅速で、常に状況を調整していく能力が求められる。この適応力の高いシステムは環境からの継続的なフィードバックでどんな複雑な状況にも対応し、変化できる土台を創出していく。

何世紀にもわたって機能している軍隊の指揮命令系統でさえ、より適応力の高いシステムへと変化させようという動きもある。

指導者が向かうのは「計画・実行型ではなく、適応型」であると語るのはチーム・オブ・チームズの著者であるスタンリー・マクリスタル氏だ。元軍司令官で機敏性があり、適応力に富んだ部隊と戦った教訓から、複雑で変化の激しい時代にはこの適応力が重要な要素になるという。「リーダーは部下を見守りながら仕事を任せ、変容する自然生態系のように事業や組織を経営すべきなのです。」と主張する。

「今までのリーダーの目標は、そのパワーや人的資源を 適切に配置しながら最大の効果を生み出すように会社 を経営することでした。しかし、経営環境が複雑になる につれ、組織をどう再構築するかに注力するよりも、組 織をどう刷新していくかを継続的に考えることのほうがよ り重要になります。加えて、どうやってチームに再び活 力を与え、自発的に意欲を持って仕事に従事させるかと いうことを真剣に考えるべきです。」とSteelcaseのCEO であるJim Keane氏は語る。

「経営環境が複雑になるにつれ、組織をどう再構築するかに注力するよりも、組織をどう刷新していくかを継続的に考えることのほうがより重要になります」。

Jim KeaneCEO&社長

非言語で伝わる「スペース: 新リーダーシップスペースをデザインする

昨年、Steelcaseの研究員やデザイナーたちは、新たなコンセプトの実験台として、経営陣と協力しながら、役員スペース「リーダーシップコミュニティ」の次なる進化に向けての設計に着工した。彼らは過去20年にわたって、役員スペースのコンセプトを立案し、テストをしつづけてきたチームである。劇的な変革は1995年で、個室の役員スペースを建物の高層階から低層階のオープンスペースへと移動させた。2回の改装を経てチームが判断したことは、未来型スペースへのさらなる探求であった。「私たちは完璧なまでのスペースを手に入れたので、さらなる領域に向けて挑戦をすべきだと思ったのです。」と主張したのはCEOであるKeane氏自身であった。「スペースは企業の非言語コミュニケーションのひとつです。伝達方法であり、望む反応を誘発する方法のひとつでもあります。」とBarnhart-Hoffman氏は主張する。企業のリーダーたちは物理的スペースが、組織や社員、外部のビジネスパートナーや投資家たちなどへのコミュニケーションのひとつであるとは考えていない。企業が真に望む企業カルチャーの姿と実際の物理的スペースが表現しているメッセージの間にはギャップがある企業も多くある。

「理想的な物理的スペースを構築するには、そこで働く 人々の行動を中心に考えることです。しかし、実際には 人々の行動はスペースをデザインする上での副産物とし てしか捉えられていないのです。アイデアが網の目のよ うに絶え間なく生成され、人々を分離するのではなく、 相 互 に 交 流 するス ペ ース が 必 要 な の で す。」 と McChrystal氏は語る。 「私たちは新たな役員スペースを経営と企業カルチャー の変革の象徴として位置づけました。それにはよりオー プンで相互につながるスペースの構築は不可欠という判 断をしました。」とBarnhart-Hoffman氏は語る。

主な原則

個を支える「場」
肉体、精神、認知力はすべて関連して機能する。リーダーたちが直面する業績や企業価値向上への日々のプレッシャーに対する耐性を高めていくことは極めて重要である。エグゼクティブのストレスを軽減し、ウェルビーングを促進するスペースは認知プロセスを強化していく。

深い集中を可能とする「場」「場」
リーダーたちは貴重な時間を使って、一日中常に情報内容を切り替えながら仕事をすることを要求される。伴は仕事に素早く、深く集中できるような環境づくりである。

人と情報が交差する「場」
グローバルに事業を展開する企業は、特に人間関係や情報の共有化を維持することが大きな課題となる。役員スペースは「人」と「情報」が網の目のようにつながるようにデザインされなければならない。これはリアルとバーチャル両方の環境にいえることである。

役員スペースの役割を再定義する「場」
Steelcaseのリーダーシップコミュニティスペースのプロトタイプは、Steelcaseの独自性とどの企業にも適応できる普遍性を持ち合わせていた。経営陣共通の目標のひとつは、グローバルに分散した幹部を上手くつなぎ、機能させることであった。「私は遠隔にいる幹部とビデオ会議する際に、そのスペースが適切にデザインされていないために会議が上手く運ばないことがありました。発言する場合も手を挙げなければならない時もあり、公平に会議に参加できないストレスを感じていました。」

Keane氏は組織の企業カルチャーや風土といったものの変化を図るために役員スペースを変えたいと考えていた。「私は自分のチームがトップダウンの意思決定者から、所謂、環境をつくる責任者になるという改革が可能な環境づくりを願っていました。私たちの仕事はすべての意思決定をするのではなく、社員の声に耳を傾け、現場に関心を向け、社員の能力を最大限に引き出せる環境をつくることなのです。」と語っている。

今回の重大決定のひとつは、経営陣と社員を分離している高層階フロアにあるスペースをオフィスの多くの人が交差するメインフロアに移したことである。そこを経営陣と社員が共に働き、人が頻繁に行き交う「場」にすることで、経営陣がより現場に近くなり、自らも学び、社員や訪れる顧客ともカジュアルに話せる機会をつくることに成功している。

「今日のエグゼクティブたちの多様化したニーズに対して、ひとつの解決策があるわけではないことは私たちの調査研究でも証明されています。重要なのは、規則によって行動を縛らない多種多様なスペースを提供することです。」

Patricia Kammerシニアデザイン研究員 WorkSpace Futures

Steelcaseの行動プロトタイプ: 事例

Steelcaseの経営陣が最近入居した新リーダーシップコミュニティスペースは、Steelcaseの他のスペースと同様、そこで働く人の行動を観察する実験用プロトタイプとしてそのコンセプトは時間をかけて評価されることになる。組み込まれたテクノロジーや行動観察調査によって、どのようにスペースが利用され、働き方をサポートしているかがデータや自社の洞察となって、職場環境の知として集積されていく。

「今日のエグゼクティブたちの多様化したニーズに対して、ひとつの解決策があるわけではないことは私たちの調査研究でも証明されています。重要なのは、規則によって行動を縛らない多種多様なスペースを提供することです。」とKammer氏は説明する。

レイアウトプランは、下記の3つの活動を念頭にゾーニングされている。

  • 発見と学習
  • コラボレーション
  • 個の集中とつながり

これらの項目は何十年にもわたって、リーダーにとって不可欠な活動と捉えられてきましたが、最近のSteelcaseのリーダーシップコミュニティスペースでは、「発見と学習」の要素が最優先事項として位置づけられた。

今までのリーダーシップコミュニティでも、リーダーはチームの一員として機能し、オフィスにいる時は一緒に働くべきであるという考えを持っていた。しかし、これは社員の中に入るということまではいかなかった。最新型リーダーシップスペースは、意図的に社員が交差するメインフロアに設置された。社員はリーダーシップコミュニティ内にあるミーティングスペースや個人のワークスペース、交流スペースなどを自由に利用出来るような仕掛けがなされた。この試みは過去のものに比べて、組織内での経営陣の透明化を図るという意味ではかなり過激である。しかし、それが社員への明確なメッセージとなった。この戦略は複雑な適応システムの中で、人や情報やアイデアの自由な流れを構築し、社員の行動を強化していくことになる。


リーダーシップ コミュニティ

新リーダーシップコミュニティスペースは建物のメインフロア に位置し、すべての役員はオープンな執務環境の中に配置さ れ、社員へのアクセスも容易である。

新リーダーシップコミュニティスペースは建物のメインフロア に位置し、すべての役員はオープンな執務環境の中に配置さ れ、社員へのアクセスも容易である。
個室の代わりに、CEOであるKeane氏を含む経営幹 部はそれぞれに仕切りのないデスクを持ち、必要に 応じて周りに設置された多種多様なタイプの個室を利 用している。全員高度なモバイルワーカーで、スペー スの不在率が最大80%にまで上がったため、新スペー スの面積はその三分の一に縮小された。「これはより 効果的な働き方に変えただけでなく、不動産の有効 活用にもなりました。」とBarnhart-Hoffman氏は語 る。
経営陣も社員と同様、プライバシーや交流のためのスペ ースが必要で、多様なニーズを念頭に設計されたプライバ シーの高い個室を共有している。極秘の会話や議論をす る、ひとりになって熟考する、エネルギーを充電するため の「アンクレイブ」と呼ばれる狭いプライバシー空間も設 置されている。
この最先端のリーダーシップコミュニティスペースの革新 的機能の中でも特徴的なものが、役員秘書の存在である。 もはや彼らは役員室の前で門番のように部屋への入出を管 理する存在ではなく、彼らも隣接して座り、情報を共有す るチームの一員として機能している。
経営陣は今、オフィスキャンパスのメインフロアにスペース を構え、社員と自由闊達に意見交換が出来るレイアウト が採用されている。通常のミーティングに加え、自然発生 的に起こる会話が人と情報をつないでいく。
Steelcaseはグローバルに事業を展開している企業であ り、経営陣は定期的に海外に出張し、分散することも多 い。そのため、チームにはリアル、バーチャル両方のコ ミュニケーションが必須である。そのために採用したの が最先端技術であるイマーシブテクノロジーで、自走式 ロボットに搭載された仮想プレゼンスデバイスは遠隔に いるメンバーがあたかもそこにいるかのような臨場感あ るミーティング体験を提供している。

「物理的なスペースは組織の弾力性や敏捷性を育て、従 業員エンゲージメントを高めるツールとして活用でき、 組織全体に学ぶ意識、パフォーマンスやウェルビーング の向上にも貢献します。また、それとは逆に、経営陣と 社員を分離し、個を組織から離し、ストレスを増幅させ る存在にもなりうるのです。」とBarnhart-Hoffmann氏は 語る。「私たちはリーダーシップスペースを通して、社内 外に明確なメッセージを伝達することを目指しました。つ まり、組織が階層型ではなく、ひとつの複雑な適応シス テムの中で機能することです。これによって、経営陣が ひとつになり、そこで働くすべての人々がより俊敏で柔 軟性を持ち、常に学び、変化するという企業風土を築く ことが可能になります。」

あなたの会社の働く「場」は経営陣と社員がどう恊働す るかの明確なメッセージを表現しているだろうか?果たして 企業理念や望む企業風土を具現化しているだろうか?

2つの場所に 同時に「存在」する

Steelcaseのグローバルコミュニケーション担 当副社長であるGale Moutrey氏は自走式ロボッ トにマウントされた仮想プレゼンスを実際に 体験している。トロントに在住し、リーダー シップコミュニティ中をロボットで移動しな がら、同僚とのカジュアルなミーティングに 参加している。

Steelcaseの経営陣が構えるリーダーシッ プコミュニティスペースが刷新される中、 エグゼクティブチームメンバーは、いまや 3大陸4カ国に分散している。そこで導入 したのが「イマーシブテレブレゼンス」 と称される最新技術だ。チームはシスコ 社のiRobot Ava500というテレプレゼンス ロボットを採用し、遠隔地にいるチームメ ンバーがそこにいるかのような臨場感溢 れる雰囲気をリアルに体感できる環境づ くりを実践している。

Steelcaseのグローバルコミュニケーショ ン担当副社長であるGale Moutrey氏はこ の実験に最初に参加した人物である。高 度なマッピング機能と遠隔操作のおかげ で、世界中のどこにいても可動式ビデオ 会議が可能となった。トロントにいる Gale氏は米ミシガン州グランドラピッズに ある自分のロボットを動かし、目的地を 設定すれば建物内のどのミーティングに Steelcaseのグローバルコミュニケーション担 当副社長であるGale Moutrey氏は自走式ロボッ トにマウントされた仮想プレゼンスを実際に 体験している。トロントに在住し、リーダー シップコミュニティ中をロボットで移動しな がら、同僚とのカジュアルなミーティングに 参加している。 も出席できることになる。目的地まで 自走する際には、あたかもそこにいる かのように通路での会話も可能とな る。この自走式ビデオ会議テクノロ ジーによって、彼女は同僚メンバーや 率いるチームとの超高臨場感あるミー ティングを体験することができる。

この体験はまさに場の束縛からの「解放」である。たとえ最適なテクノロジーとそれを装備した完璧なスペースがあっても、チーム作業やコラボレーションの成功には欠かせない自然でシームレスな対話をビデオ会議で実現するには限界がある。

「私の業務はグローバルに広がっ ていますが、やはり業務をスムー ズに遂行するには対面での会話 が一番です。よって、必然的にビデ オ会議に依存することになります が、問題はその質です。」

この状況の中で、テレプレゼンスロボットであるiRobotは「予想外の相互交流や実際に存在しないでそこに存在することを可能にしました。何も予定がない時でも遠隔操作でロボットを自走させ、カフェに行き、誰かと偶然に出会うこともできるのです。」とGale氏は語る。

Steelcaseで最初にロボット人間になってみて妙な感じはしない?「それはほんの最初だけです。あまりにもその体験がリアルで自然なのでそれがテクノロジーなのかどうかも次第に意識しなくなっていきます。」と語っている。